シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


晴香ちゃんを先頭に…待ち合わせた北新宿から高田馬場近くまで、ひたすら歩いて行く。

早稲田を含めたこの付近は、学生達の街として有名だ。

大手有名学習塾が軒並み並ぶ、あたしにとっては…必要な時以外は寄りつきたくもない、普通では絶対足を踏み入れたくない街。

此処は"知識の結界"に覆われていて、その外側でのほほんと暮らしているあたしを、思い切り弾いているんだ。


あたしの足はぴたりと止まる。


………。


「どうした神崎? 眉間に皺寄せて」



「…うん。


結界に――…阻まれてね」


深刻そうに、一度言ってみたかったこの台詞。


「……。芹霞、結界は張られてないよ?」


だけど速攻、にこやかな玲くんに却下されてしまった。


結界は不発なら――。


「うう…し「"瘴気が身体を蝕んでいく"、とか言うなよ、神崎?」


あ、先に言われちゃった…。


またまた、不発に終わってしまったようだ。

無念…。


「由香ちゃん、芹霞に変な言葉は教えないでね? 一応芹霞は"ノーマル"だからさ」

「師匠、この程度を"厨二"と言うのなら、師匠や皆が普通に口にしている方が、余程重度の厨二病だぞ」

「普通に厨二なの…? ぼ…私…」


嘆く玲くんを余所に、前方の信号機にかかった青い看板に、『西早稲田』の文字を見つけたあたしは、ふとそちらの方を見つめた。

西早稲田はS.S.Aがあった場所だ。

………。


あの"お試し"は、本当になったんだ。

あれは初デートって言っていいのかな。

泣いたり笑ったり赤くなったり…色々あったな。


そんな感慨に耽っていると、あたしの真隣に来た玲くんが、あたしの手を引いて…背中越しで手を握ってきた。

皆から見えないように。


その手は男の玲くんのもので、やはり恋人繋ぎにされる。


玲くんも思い出しているんだろうか。


ちらりと玲くんを窺い見れば、視線が合った。

その目はとろりとしているけれど何処か切なく…、どことなく…キスされる寸前の真剣な面差しを彷彿してしまったから、思わず拒むように身を反らしたあたし。

玲くんは軽く笑って目を伏せると、すぐ手を離したんだ。


そっと…。


「例え女の身いえど…欲しい心は…同じ。拒まれるのは…辛いね」


口を開きかけたたあたしの唇を、玲くんは人差し指で軽く押さえて、哀しげに笑う。


「判っているよ…。今はそんな状況じゃない。だけど…周りを考えずに、堂々と…何度も皆に見せつけた…あの時を思い出してさ…」


それはあたしにしか聞こえない、小さい声で。


「どんな格好をしていても…君が好きだよ」


その真剣で…切なそうな端麗な顔に…。


やばい。

胸がぎゅんぎゅんいってきた。

あたしの中のオトメスイッチが入ったかも。


やばいよ、彼氏サン。

不意打ちは駄目だよ、彼氏サン。


そんな風にされたら、あたし――…。


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