シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「教義では、奇跡の力というものは、黄幡会に入信してきちんと信仰神…羅侯(ラゴウ)に帰依して修業すれば…誰でも出来るものなの。だから計都様や"教祖(マスター)"が、特別な存在ではないとされている。それでも信者にとって、あのお二人は特別よ」

羅侯(ラゴウ)!!!

ドラゴンヘッドマークの親玉の新興宗教だったか、そういえば。

「黄幡会の教義の目的は…奇跡を行うことなの?」

玲くんが押し鎮めた声で聞く。


「それは手段にしか過ぎないわ。私達は、妖魔と呼ばれる悪魔と敵対する最高神である羅侯(ラゴウ)の慈悲を説き、その奇跡をもって…人間に蔓延る妖魔を取り除いて、"来べき刻"により多くの人間達を幸福の楽園に導く人が目標」


真剣に滔々と語る晴香ちゃんに、何を言っていいのか…言葉がみつからない。

彼女がそう信じている限りは、そうなんだろうし。

由香ちゃんと玲くんは、解せないというような顔を見合わせていた。

そして由香ちゃんが、恐る恐るというように質問する。

「あ、あのさ…羅侯(ラゴウ)なんだけれど、一説によると"暗黒星が最悪の悪影響を及ぼす、全ての災厄を総称するもの"と言われているんだけれど」


なんて具体的に、由香ちゃんは話すんだろう。

「まあ、そんなデタラメなことを言うのは誰!!? そういう不届きの輩は、きっと黄幡会を陥れようとしている奴ね!!? 名前を教えて!!! 上層部に掛け合い、潰してやるわ!!」

「ク、口コミで名前もわからない…ひいいっ!!! ボクの胸倉掴まないで…!! 判ったからさ、羅侯(ラゴウ)は良い神様なんだね、判ったから!!!」


詰め寄る晴香ちゃんをやんわりと引き離したのは、玲くんで。


「羅侯(ラゴウ)と妖魔は…敵対関係にあるの?」


晴香ちゃんはこっくりと深く頷いた。


「羅侯(ラゴウ)の敵である妖魔は元々は不可視の精神体のようなもの。教義ではこうあるわ」


"妖魔、それは太古より闇に棲息せし邪悪なる幻妖。その姿、真に見るに能(あた)わず。妖魔人に忍びてその体して殺戮の限りを尽くす。狂暴なるその狂態、それ妖魔の顕現せし姿にて、来るべき刻の礎なるものなり。"


何か…何処かで聞いたことがある。


「同じようなこと、小猿くん言ってたよ。何だって皇城の教えと同じ…ひいいいいっ!! 何、ボクが何!!?」

「そのコウジョウというのは何者!!? 黄幡会の教義をパクっているのはサル!!?」


丸3つらしからぬ行動を、またやんわりと鎮めたのは玲くんで。


「"来るべき刻"というのは?」

「羅侯(ラゴウ)は近く降臨する。妖魔を払拭した人間だけが、羅侯(ラゴウ)が築く楽園に行けるの。私達はより多くの人達を楽園に導かないといけない」
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