シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
あたしは唖然、そして絶句だ。
黄幡会は此処まで胡散臭い宗教だったのか。
まともの神経の持ち主ならば、怪しすぎると思うはずだけれど、黄幡会に浸かりすぎた彼女は、盲目的であり狂信的だった。
その理由は恐らく…
「教祖(マスター)はこう言うの。
『願い求めよ。さすれば我は汝等に与えん。
さあ……求めよ。汝の願いは如何に?』
そこから始まった"教祖(マスター)"の"奇跡"は、本当に素晴らしかったわ…」
自分の目で来たという、"奇跡"に端を発しているのだろう。
「計都様の美しさ以外懐疑的だったものが、すぐに吹き飛んだわ。私を覆っていた全ての苦しみが無くなった。私に蔓延(はびこ)っていた妖魔が取払われた瞬間、感激に涙したの。皆も泣いていたわ。"天使"が飛びかったの…」
――皆さん、奇跡ですッッ!!!
ふと思い出したのは、"約束の地(カナン)"に向かうきっかけとなった音声。
あの時、確かに"天使"という単語も聞いていた。
ただし、奇跡の具体的内容まではよく判らないんだ。
「№2の"ディレクター"である計都が"約束の地(カナン)"に居たというのなら、あの場での再現は不可能ではない…か」
玲くんから漏れた言葉。
計都が…"約束の地(カナン)"に居た?
"羅侯(ラゴウ)神を信じて修業すれば、貴方も奇跡が行えます"
"さあさ、苦しみ取り除いて願いを叶えて上げますから、入信して下さい"
"一緒に妖魔を取り除いて、皆で幸せな楽園に行きましょうね"
それを推し進めるのは…美形(らしい)ディレクターと、元カリスマ教祖であり、子供の姿に転生したというマスター。
"エディター"やら"ガイダー"やら…自警団までついている。
黄幡会――
あまりに胡散臭いカルト集団じゃないか。
「私必死に教義を勉強して、出来る限り寄付をして、皆を勧誘して信仰心を示しながら、計都様が司る"儀式"に参加して修業していたら…」
こういう宗教に限って、大金はたいていくら訓練しても奇跡や超能力なんて…
「出来るようになったの」
「「出来たのかい!!!」」
突っ込みを入れたのはあたしと由香ちゃんで、玲くんは黙したまま聞き手に徹しているようだった。
「そうよ。だからこの事実を皆に伝えたくて、明日…ああ、塾に着いたわ」
と、ある円筒状の…硝子張りの建物の前で、晴香ちゃんは足を止めた。
「ここが塾…」
『黄幡塾』…そのまんま、シンプルに描かれた看板がある。
どくっ。
何だろう…凄く嫌な空気を感じた。
入りたくない…。
入ってしまえば…何処か良くない場所に繋がっていまうような。
そんな気がしたんだ。