シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「10時少し過ぎてしまったわ、玲さん…急いで!! 私達はロビーにいるから」


一歩先に自動ドアを潜った晴香ちゃんに急かされ、玲くんは小走りで受付に赴いた。


最近新しく建てられたものなのか、塾の内部の内装は外観同様とても綺麗だったけれど、生徒がおらず閑散として…物寂しい印象を覚えた。

あまり塾という雰囲気がしない。

そして壁に貼られているのは――黄幡会のポスター。

系列だから仕方が無いとはいえ、やりすぎなくらいそれ一色。


しかもそれは塾とは無関係の――


「なあ…『黄幡祭』って何だい? 日付は2日後になっているけど」


"祭"を告知する旨の文字が大きかった。


………。

おや?

桜華の掲示板で、同じようなポスター見なかったか?

ああそうだ、体育館に向かう時に見たんだ。


使用された写真は同じかもしれないけれど、桜華のものは印字がない至ってシンプル過ぎるもので、詳細がまるで判らなかった。

しかし目の前のポスターは、告知文字が明瞭だ。

明後日、東京ドームにて"奇跡"のイベントが開催されるらしい。


………。

また"奇跡"か。


しかもアイドルが夢見る大きな会場を使用して、更には協賛は東京都や有名大企業ときている。


「それは…羅侯(ラゴウ)神の復活を祝う"前夜祭"の方のポスターね。ほら、ここに書いてあるでしょう? ふふふ、どんな奇跡かは見てのお楽しみ。東京の住人は東京都が抽選を行い、抽選に当選したら…東京ドームでその奇跡が間近で見られるチャンスが与えられるの。あたるといいわね。

そしてそれが終えた次の日、羅侯(ラゴウ)は蘇るの。それが"黄幡祭"よ」

何て嘘臭い、三文SFみたいな展開なんだろう。


「黄幡祭までに…運命の相手を見つけてね」


唐突に、晴香ちゃんはそう言った。



"運命"


何だろう、この心臓を鷲掴みされたような心地。

この単語の響きが切なくて、泣きたくなってくる。


「運命の…王子様が居なければ、妖魔に心を奪われるわ」


心を…奪われる?


それは最近、久涅からも聞いた言葉だったけれど、そんなことより気になってしまったのは――

"運命"、"王子様"、"妖魔"

あまりに脈絡がない繋がりで、因果関係がさっぱり判らないということ。


そして晴香ちゃんは続けて言った。


「黄色い蝶に気をつけて。あれは、黄幡祭…"サンドリオン"を阻む《妖魔》の使い」


サンドリオン?

七不思議…のこと?
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