シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
――今はせいぜい櫂の代理として、同情する玲とどこまでもプラトニックで安全圏な「好きごっこ」で遊んでいるんだな"…って言われたの。
櫂の立ち位置を絶対的なものと捉えて動きを止める反面、僕の立ち位置には進んでつけこもうとする。
芹霞にとっての僕の存在は、脆弱(ぜいじゃく)なものだと決めつけていて、そして事実…それを口にした久涅の言葉に、芹霞は簡単に揺れてしまっていた。
どの要素かは口にしなくても、惑う自体…同じ事。
――紫堂櫂を愛している!!!
あの時のような、強さが執着が僕に対してはないのか。
やるせなさと怒りがごっちゃまぜになって、気づいたら僕は芹霞を押し倒す…そんな暴挙に出てしまったんだ。
――玲くんが欲しいのなら…。
芹霞がくれる特別を欲しくて堪らないくせに、それを痩せ我慢して押し止めたのは…男としての矜持。
僕は…僕に引き摺られた状況ではなく、芹霞から僕を求めて貰いたい、ただそれだけの為に…理性を奮い立たせたんだ。
芹霞が欲しい欲をねじ伏せた。
好きだからこそ、互いが求めるその時を待ち…心身共に至福な気分で結ばれたい、そう思うのは女々しすぎる感傷なんだろうか。
僕は信じたいんだ。
芹霞の中に僅かなりとも育っている感情を。
女装していても、男の僕を見ている…その眼差しを。
それを消し去りたくはないんだ。
僕をもっと意識してよ。
もっと烈しく嫉妬してよ。
僕だけをもっともっと特別に扱って。
もっと芹霞の特別を僕だけにくれよ。
狂いの"僕"がざわざわと騒いでいるんだ。
付き合えた喜びに一度は引っ込んだ"僕"が、恋人という特別な立ち位置を利用して、"もっと"を主張する。
溢れる男の欲。
女装すれば殊更、それがよく判るんだ。
願望ばかり膨れあがり過ぎて、苦しくて堪らない。
――願い求めよ。さすれば我は汝等に与えん。さあ……求めよ。汝の願いは如何に?
身体を重ねれば…この苦痛から解放されるのだろうか。
――私を覆っていた全ての苦しみが無くなった。私に蔓延(はびこ)っていた妖魔が取払われた瞬間、感激に涙したの。
苦痛が妖魔のせいだというのなら、僕の身体は妖魔だらけだ。
ああ、僕にも…奇跡が欲しいよ。
バタン…。
物音に驚いて伏せた顔を上げれば、開いたドアから…背広姿の男が入ってきた。