シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
背広は細身の紺地で…若々しいデザインなのに、着ている男の顔は…やけに深い皺を顔に刻んで疲れ果てた顔をしており、そのミスマッチさに何だか笑えた。
襟元には丸1つ塗り潰された免罪符。
首からぶら下げた名札には、「鸛」とある。
ローマ字表記は「KAKU」
本人かアカの他人か判らないけれど、この漢字は…
――コウノトリさん。
もし紫茉ちゃんの言うことが本当で、あの男も…子供という幸せを運ぶ一族の末裔だとしたら、僕に芹霞との幸せを運んできて欲しい。
そんなことを思っていると、男は僕達の解答用紙を回収して言った。
「30分程、ここでお待ち下さい。結果を此の教室で発表します」
そしてこの部屋は、僕達だけになる。
「なんだか真剣にやっちゃったよ…あたし」
「ボクもそうだ。クイズみたいで面白かったよね。こうした試験が、桐夏の定期テストだったらいいのに」
「そうそう、あたしもそう思った!!」
和やかな空気に、棘だっていた僕の心は平坦なものになっていく。
「30分何してようか」
「どうせならさ、調べて見ようよ…お祭りのこと」
由香ちゃんは、スクールバックからノート型パソコンを取出した。
東京都にはやはり虚数の割合が多いけれど、朱貴との鍛錬を思い出せば…0と1の増殖は出来る。
感覚の再現だ。
「やっぱ師匠は凄いよな。一段と電波が安定して、無線も最速通信だぞ!!? 歩く発電機、歩く無線…また異名が増えたね」
カタカタカタ…。
「1つくらい成果出さないとね、稽古して貰ったんだから」
「1つじゃないよ、玲くん。結界の治療も強くなったし、凄いな。さすがだな」
芹霞に褒められるとくすぐったい気分になるけれど、僕はこれが限界として満足する気はない。
僕だって…貪欲の血を引いている。
「ねえ、調べる前に…ちょっと僕が作ったプログラム走らせてくれる? ほら、メインコンピュータ動かす為のものだよ」
カタカタカタ…。
画面は棒グラフを表示しているけれど、上にあるボーダーラインまで行き着いていない。
「ん…。今百合絵さんに…電力探索機の子機を、電力が強いと思われるいくつかの部分に設置して貰って、そこから親機に電力を流す作業をして貰っているんだ。電力は…まだ足りないけれど、僕の力を足して…少し、遠隔操作…試してみようか」
目を瞑り、0と1を生み出すこの感覚は…かなりクセになりそうだ。
身体に気が巡って0と1が充満すると、気分が高揚してくるんだ。