シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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30分という待機時間が差し迫り、広げたものの片付けを丁度終えた頃、


「特待生? 僕が?」


待機教室に現われた男は、テストの結果と共にそう告げた。

それによれば、僕は誉れある"特待生"の正答率に達していたらしい。


「おめでとうございます」

芹霞と由香ちゃんの嬉々とした拍手の中、反比例したかのようにあくまで淡々と、愛想とばかりに祝いの言葉をとってつけたのは、テスト用紙を回収した…鸛(かく)という名字の男。

事務員なのか講師なのか、よく判らない。

先程よりも疲労度の濃い…何だかげっそりとした老け顔は、元来の顔の作りなのか…それとも真実疲れ切っているものなのか、何とも判断し難い微妙さがあるけれど、彼の若さを主張する要素が、浮き足立ったように思えるスーツのデザインだけというのは、何とも哀れみを誘う。

実際のところ、彼は何歳なんだろう…。


「こちらのお二人は、正答率は高めでありましたが、こちらで想定した解答問題数には届かず、残念ながら」


「「当然!!」」


二人は既に納得しているらしく、親指を突き立てた。


「特待生はこちらの校舎ではなく、特別校舎に移って頂くことになりますので、下の窓口でその手続きをして下さい。あ、お二人は…これからこちらの校舎で塾が開講しますが、受講されますか?」


「「滅相もない!!」」


見事ぴたりと、二人の波長は合っている。


「ではいつから受講されるか、窓口にてお申し付け下さい」


二人は揃って渋い顔をした。


「手続きは私が代行しますのでご心配なく」


適当にすませよう。

もしなんだったら、免罪符の威力で…。

折角…泣く泣く大金はたいて手に入れたものなら、とことんその威光を利用してやろう。

泣き寝入りだけはするもんか。


「特別校舎は何処ですか?」

「水道橋になります」


水道橋…。

自警団の更正施設がある九段下に近い。


大量のデータを蓄える設備がある九段下。

朱貴曰くジキヨクナールの謎も、更正施設と無関係ではないらしい。


寄ってみるか…。
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