シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
いまだ敵の姿をはっきり掴むことは出来ねえけれど、櫂のしなやかな動きだけは、まるで神々しい光に包まれたように目に焼き付くんだ。
玲の戦う姿も舞いのように綺麗だけれど、櫂の戦う姿はそれに力強さが加わっている。
主として護られていたはずの櫂が、ここまで戦闘尽くしなのは珍しい。
護衛より強い主は、死も征服したんだ。
――芹霞あああああ!!!
心身共にまだ回復しきっていないはずなのに、ここまで動けるものなのか。
そこまで櫂の強くありたいと願う心は強いのか。
心は、此処まで身体を動かせるものなのか?
それでも限界の見える闘い方じゃねえんだ。
何処までも力を温存しているかのような余裕がある。
不敵で好戦的で…見ているとぞくぞくとした高揚感に包まれる。
共に戦う限り、俺もまだまだ先に行けるような…不思議な力が湧いてくるんだ。
だから戦うのが楽しくて仕方がなくなる。
「紫堂櫂もワンコも、なんでそんなに凄いんだよ!!! 何で俺みたいに、はあはあ息切れないわけ!!?」
それでもこの中を逃げられる小猿の動きも大したもの。
「翠にも…武器が必要だな」
突如櫂の独りごちたような声が聞こえたと思ったら、
「翠、式を出せ」
この戦場の中、必死で逃げ回る小猿に、精神を集中させて術を使えと櫂は言う。無情にも。
「は? こ、この中で?」
「そうだ。この中で。しかも自分の身は自分で守れ」
「おい、櫂…それは…」
「無理。俺無理!! 集中なんて…」
「戦いは、常に穏やかな中で行われるとは限らない。俺達だって身を守りながら、色々攻撃出来るものを創り出している。それに、7体の式が出せるのはお前の自慢だったろう? 出来るか出来ないかは、やってみてから判断しろ」
そう指示する櫂は、多分信じているんだろう。
小々猿が出せると。
小猿には未知の力が隠されている。
それが表に出ないのは、自信のなさ。
櫂は、自信をつけさせようとしているらしい。
まあ確かに、こんな状況下で出来ればそれは…。
「やってみろ、小猿!! ただし。小々猿犬はやめろ。あの気色悪いもんだけはやめてくれ」
「何だ? 小々猿犬?」
「ああ。顔が小猿で身体が小犬。まるで弱々しい合成獣(キメラ)、しかも7つ」
想像したらしい櫂は、何とも言葉に詰まったようで。
「やってみる!!!」
そして小猿は、符呪を取出して詠唱を始めた。