シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
こんな戦況の最中でも、小猿のことを考えられる櫂は凄いと思う。
俺なんて自分で精一杯なのに、櫂は自分のことだけではなく…ちゃんと周囲を冷静に判断出来ているのか。
そしてただ流されるだけではなく、この先の戦況を有利に進め、少ない手持ち札から、逆転の札を作り出そうとする。
こういうのが、人の上に立つものの"器"なんだろう。
やっぱり俺は、櫂が主人でよかったと思う。
"漢(オトコ)"としてやはり俺は――
櫂にどこまでも従って、そして共に走りたい。
黄色い7枚の符呪を手にした、小猿の詠唱が続いている。
口では突き放したけれど、櫂はこっそりと…小猿への攻撃数を減じてやっている。
それは俺も同じで…俺達は顔を見合わせると、声をたてずに笑いあった。
"翠を…守ってやるぞ"
そう…目で俺に語った櫂は、さすが自慢の俺の主だ。
そのことに気づく余裕がない小猿は、数少なくなった(はずの)敵の攻撃をなんとか躱しながら、生と死の狭間で藻掻いているかのような頼りない声色で、時折裏返ったり涙声になったり同じトコロを延々と繰り返したり、更には遅くなったり早くなったり…精神状態を思い切り声に反映していたけれど。
後半は…自棄にでもなって開き直ったのか、一定の調子を保ち、崩れなくなった。
やがてトランス状態に入ったような…陶然とした声色に変われば、小猿が混乱を脱皮し、身体を無意識に動かしながら、詠唱に集中している状態になっていることが判った。
やれば出来るサルだ、小猿は。
出来ると、自分を信じろ、小猿!!!
そして――
「…急急如律令。出でよ、式神!!!」
しーん…。
「出でよ!!!」
しーん…。
「………うっ」
小猿が…凹んだ。
「くくくくく。猿が小猿を同時に7匹も生めるわけないじゃないか。産卵の亀でもあるまいし。ほ乳類は、1匹ずつしか生めないことも知らないのか?」
「…黙れ、阿呆リス」
ぴん。
「あうっ…」
デコピンしたら、倒れたようだ。
お前も強くなれ。