シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「1匹…。そうか、1匹…」
何かを思い立ったらしい小猿。
「この瘴気の力の方が俺の力より強いのは原因の1つ。だとすれば少しの間でもこの瘴気を薄めさせて、その間に…」
そして小猿の凜とした声が響く。
「東海の神、名は阿明、西海の神、名は祝良…」
この詠唱から感じる"気"に覚えがある。
あれだ、かつて桜華に屍が襲ってきた時、小猿が放送室で瘴気を退けた奴だ。
「――…四海の大海、百鬼を退け、凶災を祓う。急急如律令」
久遠の使う言霊のような、言葉が生む震動(バイブレーション)が空間に清い拡がりを見せ、それと同時に…濃密すぎて動く余地すらなかった瘴気が、小猿の声を嫌がるかのように揺らいだ…そんな気がした。
「よし、今だ!!!」
そう叫んだ小猿は、指を歯で噛んで血を流すと、真新しい黄色い紙に、その血で何かをさらさらと書いて。
「――急(すみやか)に須(すべから)く、光降を垂れ給え」
最後にそう言葉を結んだ時、小猿から…"気"がぶわりと膨らんだ。
そしてそれは1点に濃縮されていく。
止めどなく膨れあがる小猿の気が、ただ1点に向けて…流れ込む。
「!!!?」
そして――
「来た!!!!
召喚成功だ!!!!
うわあああん!!」
泣いて喜ぶ小猿の片手には、
「ん……?」
30cmほどの…小々猿、の更なるミニチュア版。
言わば…小小々猿。
体長約15cm。
チビリスとほぼ同じ大きさ。
小々猿と違うのは…全身金色の鎧を着て、右手に宝剣を、左手に縄のようなものを持っている。
………。
普通の鎧じゃねえ。
剣だ。
逆さまになった黄金の刃がのれんのように垂れ下がって身体に巻き付いているような…そんな鎧。
凄く神々しいオーラがあるのは、そうした物騒な金ピカ鎧と…顔の肌まで金ピカのせいか。
何だろう…神々しく感じるけれど、笑いを誘うのは。
………。
「また…小猿の顔かよ…」
式神って、術者の顔じゃねえといけないのか?
「何だ…今度のは…。しかし凄いな…」
櫂が目を細めているのは、小小々猿の金ピカのせいではなく、小小々猿が持つ凄まじい気に対してだろう。
完全に主人より、力は上。
小々猿よりも小々猿犬よりも、ランクは極上の部類。
「翠殿。お助け申す」
やたら古めかしく、厳つい言葉を使っても、小猿顔の15cmの体長から聞こえた、甲高い小猿の声では効果半減。
期待して良いのか悪いのか、微妙な…一抹の不安が胸に過ぎるが、小小々猿はひらりと小猿の手から飛び降りると、
「大宝輪、出でよ!!」
すると小々猿を取り巻くようにして突如現われた、7個の拳くらいの"わっか"が、ぶんぶんと俺達の回りを自由自在に飛び…その速度を増していく。
その威力と速さは、ある種結界となり…敵の攻撃を弾いていたんだ。