シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


小猿はまだ白目を剥いている。

少し前から俺の頭の上の奴らが、ぼそぼそと何か話し込んでいる気配がしたけれど…どうでもいいや。

出ていく気がねえのなら、とりあえず静かにしていて欲しい。


俺は、顎髭を手で撫でながら、成り行きを見守っていたクマの方に向いた。


「おい、クマ。お前、アホハットとつるんだのは今なんだよな。つーことは、お前…こんな処を1人で出入りしてたのか!!?」


「がははははは。今の敵に"爪"があるように、俺には"毛"があるからな」

そこで持ち出された…、爪と同列になされた毛。


毛!!!?

その超速で生える毛は、やっぱ特殊仕様なのか!!?

中性的な美しい顔を覆い隠す以外に、意味があったのか!!?


俺はごくりと唾を飲み込んで言った。



「もしや、お前の武器は…」




櫂が、ぽんと俺の肩を叩く。


「煌。毛は、毛だ。敵に致命傷を与える程、毛が長く伸びたり縮んだり出来るのなら、人間と言うより妖怪だ。生憎、クマからおかしな瘴気は感じない。お前もそうだろう?」


………。


「出来ないのか!!!?」


思わずクマを向けば、


「がはははは。期待されていた処悪いが…俺はただの人間だ。半日かけて顎髭の長さになるのが、精一杯の"成長"だ。ま、俺は特殊事情があるからとでも思っていてくれ」


畜生、考え込んだ時間を返せ!!!


「くくく。この馬鹿犬、きっと一瞬にして全身から何十mにも伸びた毛が、うねうねうねうね敵に襲いかかって倒すんだと思っていたんだよ? C級ホラーや妖怪漫画の見過ぎだよね。現実的にありえないこと、僕だってすぐ判るのにさ」


………。


「なんと。物理的法則を無視する愚者が、此の世界にいるとは。そんな者が主ではなくてよかった。感謝致す、翠殿」

「いやいや、あはははは。ま、これからもよろしく頼むな。お前言うこと聞いてくれるから助かったよ」


………。


「煌。翠が…護法童子の制御を可能にしたらしい。白目を剥いて、懸命に説得していたのが功を奏したんだ。レイの同居人というスタンスを取ることで落ち着いたようだな。今お前の頭の上に、仕切りの紐みたいのが敷かれているぞ」


………。


もう…いいや。


俺がリス以下だと思われようが、小猿以下と思われようが、俺の頭をおかしな奴らがシェア割してようが。


いいや…。俺、心も強くなるんだ。

重くても…首の筋肉鍛えていると思おう。

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