シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「さて、今のは序の口。此処からは切磋琢磨の大乱闘になるだろう」


クマはそう言った。


「前にも言ったが、此処では弱者は消される。消されたくなければ、闘いに勝ち続けろ」


「ねえ、クマ。ゴホウ(護法)ちゃんも使って良いのか?」


ゴホウちゃん?

ああ、小小々猿のことか。


「お好きなように。手段は問わず、ただ勝てばいい。さあ準備はいいか? 来るぞ? わんさかとな」


巨大な偃月刀の柄を握りしめた時、


「ワンコ殿」


頭上から小小々猿の声がした。


「俺の名前はワンコじゃねえ」


「翠殿が"犬"と仰られた。この世界では犬をワンコと呼ぶと教えて下さったのだ。我が主の言葉は絶対的だ」


このがっちがち頭の盲目的な小猿信仰。


「ワンコ殿も、共に下僕として力を合わせようぞ」


舌打ちしながら小猿を見ると、小猿は慌てて顔を背けて口笛を吹く。


小猿…。

お前白目剥いている間に、どんな手懐け方をしたんだ?


「レイ殿、先程は失礼つかまつった。翠殿と協約を結ばれていた、偉大なリス王国のリス王子だったとは」


何だ…それ。

小猿は…横向いたまま。


「判ればいいんだよ。お前も…中々気が利くみたいだし、先刻までの"無礼"は水に流してやるよ」

「かたじけない。部屋を間借りする対価の胡桃は、力が戻った後で必ず…」

「うん。頼むよ、金ピカ牛蒡(ゴボウ)」


………。

賃借料…とったのか、このがめついリス。


「はははははは」


堪えきれないというように、櫂が笑いだした。


「レイに友達が増えてよかった」

「友達というより、カモにしてるだけだろ」

「僕はカモじゃないよ、リスだよ!! こいつはゴボウだし!!」

「チビ、ゴボウちゃんをヨロシクね」


いつの間にやら、"ゴボウ"に定着させた小猿がそういうと。


「任せておいて!! 此の世の常識をちゃんと教えてやるから」


非常識リスは先輩風を吹かせている。


ああ、もう…勝手にやれ。

俺は…戦力になってくれたら文句は言わねえから。


「では行くぞ」


櫂がクマに合図を送った。

アホハットがパチンと指を鳴らすと同時に、立ちこめる瘴気。


「サービス、終了♪」


今まで、小小々猿の龍が瘴気を消したと思っていたけれど…それはやはり一過性のもので、長く続いていたのは…知らずアホハットの結界の中に居たせいらしい。


ああ…景色が変わって行く。


これは今変化したのか?

それとも元々だったのか?


隠匿されていた"風景"に、場の景色が戻ろうとしている最中、


「ワマス ウォルミウス ヴェルミ ワーム…」


響き渡ったのは、複数の男女の声。

悍(おぞま)しい声の響きに、俺はぶるりと身震いしてしまう。


鳥肌が立つ程凶々しいのに、不思議と懐かしい…そんな矛盾した心に説明がつかねえ俺。

瘴気を呼ぶその声音に、何で俺の身体までも共鳴するよ?



「"ワーム"? この言葉は…」



櫂が呟いた時、俺は感じた。

肉体が知覚するよりも、まず本能が鋭敏に。



「櫂、危ねえッッッ!!!」



俺は、櫂の前に飛び込んだ。
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