シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
桜ちゃんを最後に見たのは、紫茉ちゃんの家であたし達の敵として襲いかかってきた時だ。
裏切り者の副団長に操られて行方不明になった後、何故神崎家の地下で倒れていたのか。
「"あの状態"の桜をしとめるなんて、どれだけの奴だよ…」
誰が桜ちゃんに火傷を負わせたのか。
あたし達と離れて居る間に…何が起きていたのか。
全ては謎に包まれた中だけれど、今はただ…桜ちゃんが少しでも回復することを願うしかない。
「葉山…火傷の痕、残っちゃうのかな…」
可愛い可愛い桜ちゃん。
つやつやほっぺとくりくりとした大きな目。
あの姿が…なくなってしまうんだろうか。
「それでも。命失うよりはマシだ。何としてでも助ける」
そうだ。
例え見るに堪えない顔になったとしても、桜ちゃんは桜ちゃん。
あたしは…あたし達は、絶対に嫌わない。
姿形で結びついた、脆(もろ)い絆ではないのだから。
ロビーのソファーに並んで座っているけれど、軽口は誰の口からも出てこない。
各自桜ちゃんを心配しながら、ひたすら百合絵さんの到着を待つ。
その時、突然建物に音楽がかかった。
眠さを誘うような、細いオルゴールの音色。
アルファ波を誘うような音楽かと思いきや…メロディラインは、
「Zodiac…」
あたし達は顔を見合わせた。
かつてZodiacの曲に虚数が紛れこんで、黄色い蝶が現われた。
今その曲が流れているけれど…
「瘴気は感じるけれど、曲がかかる以前からだ。ま、原曲ではないしね…。警戒はしておいた方がいい。僕も結界を強める」
玲くんは危険性を否定しながらも、防護策に余念はない。
玲くんは蝶が見えて追い払える稀有な存在。
そして力を強めた今、玲くんという強い存在が、膨れあがる不安を拭う…希望の光なんだ。
『開塾のお時間になりました。掲示板にてクラスを確認下さい』
音楽が小さくなると同時に、淡々とした女声のアナウンスが響き…玄関の入口から大勢の学生が入ってきた。
硝子張りの入口間近に座っていて、これだけの人数が待機していたのに気づかなかったのは、あまりに馬鹿だと思う。
まるでバーゲンに詰めかけるような人数だけれど、バーゲンと違うのは、賑やかさがまるでないこと。
まるで軍隊のように、規則正しく2列になって…"行進"しているように思えたんだ。