シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その顔は皆一様に虚ろであり、兵隊ゾンビの行進を彷彿したけれど…、しかし身体の動きに何処か落ち着きのなさを感じるのは、自警団の目を恐れてのことのように思えた。
ただ黙って、行進を見ているあたし達の横をすり抜けて、1点の通路に向かうのは…そこにクラスが発表されているのかもしれない。
歓声やざわめきが聞こえるのでもなく、無音のままで通路を塞ぐようにして膨れあがる集団は、何だか増殖しているように思えて、気味が悪いとしか言い様がなかった。
「ねえ…」
ぼそりと…、口を開いたのは由香ちゃんで。
「結構ボク達、電話で大声出しただろう? なのに自警団が来なかったよね。師匠の丸9つ効果なのかな…。師匠だけ暗黙の了解なら判るけど、これたけの人数の学生入ってきたのに、自警団の姿が見えないし、元々この塾には居ないというのなら、入ってくる学生はこんなに暗い顔はしてないだろうし。何なんだろう?」
「いないはずはないと思うよ。どっかに隠れているかも」
あたしがそう言った時、玲くんは眼鏡を外して目を手で擦りながら、周囲を見渡しては目を細めていた。
「どうしたの、玲くん」
「ん……。なんだかさ、さっきから…景色がぶれて見えるんだよ。ずっとじゃなく、その時だけ動きがコマ送りされているようにこう…ぱっぱと切り替わるような感じで。今なんてさ、あそこの壁に…クオンが引っ掻いたような3本の爪痕のような傷が見えてさ。訝って再度よく見たらそんなものなかったし…君達も見えないだろう?」
「「うん、見えない」」
あたし達は揃って否定すると、そうだよねと玲くんは苦笑する。
「師匠…疲れ目かい?」
「ん……そうなのかな。視力、悪くなった自覚はなかったから…。ダテとはいえ、"異物"をずっとつけているのも悪いかもな…。ちょっと目を休ませよう…」
眼鏡を胸ポケットに入れて、俯いて指で目頭を押さえた時だ。
びくっと玲くんの身体が震えたのは。
そして――。
「どうしたの、玲くん!!?」
顔を上げた玲くんの顔は警戒心が色濃く表れて、鳶色の目は剣呑な光を宿していた。
「瘴気が…強まった。どこからだ?」
周囲をうかがう玲くんの様子に、あたしは思わず身を固くして、背筋を伸したまま冷や汗を掻いた。
「あ……」
それは唐突に。
玲くん同様あたりを見渡していた由香ちゃんが、突如…硝子張りの玄関の向こうを指差して、
「あれは……」
ガタガタ震えだしたんだ。
「どうしたの、由香ちゃん!!?」
「外に何かいるのか!!?」
あたし達の言葉には反応せず、そして由香ちゃんは視線を固定したまま立上がると、突如叫んだんだ。
「榊兄ッッッ!!!!」
玄関の向こう側に拡がる…外界に向けて。