シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


え!!!?

榊さんが…外に居るって!!?


蝶に目を抉られて入院し、知らぬ間に転院していて、居所が不明だった榊さんが…姿を現わしたの!!?

もう動けるの!!?


様々な疑問が渦巻きながら、由香ちゃんの進む方向を見つめたけれど、あたしには…見えなかったんだ。

それは多分…玲くんも同じだろう。

あたしに向けるその顔は、怪訝だったから。


しかし由香ちゃんは――


「榊兄ッッッ!!!」


もう一度歓喜に叫ぶと、玄関に向けて走り出してしまったんだ。


「由香ちゃん、何かおかしい!! 由香ちゃんッッ!!!」


玲くんが追いかけようと足を動かした時。


「!!!!」


ズボッ


あたしの膝元に置いてあるカバンから、おかしな音がしたと思ったら…、あたしの太股を掠めるようにしてカバンの底を突き破り…、白いふさふさの手が飛び出したんだ。


ズボ、ズボ、ズボ。


間髪入れず、音に合わせて1つずつ増えて飛び出るふさふさ。


ボスッ!!!


最後にやけに大きい音がしたと思えば…


「な…」


カバンの側面から、美猫の顔まで飛び出した。


「ひっ!!!????」


即ち、胴体がカバンと化した、完全化け猫の格好で――


「何!!!?」


四肢を大きく動かして、由香ちゃんとは反対側に走り出したんだ。


何よ、この奇妙な生き物!!!


「クオン、待ちなさい!!! 大人しく…クオン!!!」


クオンの顔をしていなかったら絶対放置して逃げ去りたいけれど、どんな気まぐれで我儘であろうとも、クオンはあたし達の仲間だ。

このままだと、この"へんてこ化けネコ"は自警団に見つかり、確実に粛正されてしまうだろう。

あたしは慌ててクオンを追いかける。


「芹霞、動くなッッ!! 由香ちゃんッッッ!!!」


背後、入口近くに居る玲くんから焦った声が聞こえてくる。


「玲くん、由香ちゃんをお願い!!! あたしはクオンを!!!」

「芹霞ッッッ!!」

「あたしは大丈夫、早く由香ちゃんをッッッ!! 外には自警団だって居るんだ!!! 玲くん、お願いッッ!!! すぐクオン連れ出すから!!」


「くっそ~~ッッッ!!! 芹霞、すぐ来いよ!!? 由香ちゃん、待てッッ!!!」


通路を走る、走る、化け猫は。

人が屯(たむろ)する、掲示板らしき前をすり抜けて。


重いカバンを身体にして、それでも敏捷性溢れるネコは、あたしのように通路を塞ぐ人だかりに邪魔されることなく、壁を垂直に走りながらひたすら走って行く。


神崎芹霞、此処でへこたれてたまるか!!!


こうなりゃ来るなら来い、自警団!!!

あたしは淑女の振舞いよりも、クオンの捕獲が大切だ!!

全力で捕獲に行かせて貰いますッッ!!!
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