シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

俺は"それ"の注意を俺に惹き付けようと、風の力をそれの体にぶつけ、挑発した。


しかし膿疱が俺の風を吸収すれば、風圧に少し大きく膨らんだそれが破裂しただけで、僅かなりとも抉れたように見えた陥没も、やがてどろりとした粘液によって埋め尽くされ…また振り出しに戻ってしまう。


手応えがまるでない。


形ない力が駄目なら固体化した武器なら有効かと、風を緑の光を放つ剣に顕現し、"それ"に向けて投げてみる。

体に確かに突き刺さったはずの俺の剣は、やはり…どろりとした粘液に遮られ、力なく地面に落ち…そして元の姿に、小さなつむじ風になって消えた。


効かない。

俺の攻撃が。



「うわわわわ!!! 僕おいしくないよ!!!」

「うぬぬぬぬ!!! 戦神の我を食らうか、三尸!!」


"それ"の興味は依然2体で。

まがりなりとも"奥義"という名の…2つの派手な雷攻撃の方が、俺の攻撃よりも、"それ"の感覚をやわやわと刺激するくらいには、勝っていたらしい。


「うあああ、チビ、ゴボウちゃんッッ!!!」



異質なんだ。

俺の力と、"それ"は…種が違う。


異質だから、効果がない。

異質だから、無効化される。


攻撃が効かないのなら――?


「――…っ!!!」


ここは…俺が囮になるしかない。

餌として!!


まさに駆けようとした瞬間。


「櫂は出るな!!!」


俺より早く…煌が飛び出した。


「お前らも、動くなよ!!!!」


闇に…橙色に煌く偃月刀。


「叩き斬るッッ!!!」


それを旋回させて、触手に振り落とした。



無理だ。

俺が試したんだ。

力も、固体化した武器も、あの粘液塗れの体には、無効化されてしまう。


されて――…。

され…?


しかし――。


「!!!?」


触手は見事にすっぱりと斬られたんだ。

そして、触手の残骸をまだ体に巻きつかせて1つになっている2体から、その縛(いまし)めを手で引きちぎると、煌は俺に向けて放り投げた。


俺は片手ずつで受け止める。


「ううっ…ちびっちゃった…」

「我は…神ぞ!!!」


涙でうるうるした目のレイと、怒りに吊りあがった目をした護法童子。


「ごめんな、ゴボウちゃん。俺の力が足りないばかりに…」

「翠、頼む!!」


落ち込む翠に無理やり彼らを渡し、煌を手伝おうと俺は駆けた。


細い触手は斬れたとしても、本体には致命傷にはならない。

…そう、思い込んでいたのは何故なのか。
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