シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「とりゃああああッッ!!!」
煌は口の中に偃月刀を突っ込み、更にその中で巨大化させて…内部から切り裂いていた。
「これでも食らえッッッ!!!」
さらに発火。
そして煌は、火に溶けた"それ"から偃月刀を引き抜き小さくすると、それを肩に担いで、ふんと鼻を鳴らして振り返る。
あっさり、だ。
何で煌の偃月刀は有効なんだ?
何で煌の炎は有効なんだ?
煌もまた、別の意味での"異質"なんだろうか。
ただ――
まだ問題はあった。
「やべえな……」
かちゃり。
煌は偃月刀を再び構えている。
「わんさかわんさか…
増え続ける。蚕が」
そして蚕からはまた――。
「"あれ"らが…自らの瘴気で仲間を呼ぶ限り、際限ねえな。どれだけ多く居るんだよ。一種の…分裂か? ああ…また現われたな」
煌の視線を追うと…
「湖…」
あるはずのない…湖のほとり。
一度は隠されたものが再び姿を現わす。
それは瘴気が薄くなった為ではない。
そこに散らばる巨大な蚕から、気味悪い生物が孵化されていく。
その度に…仄かな光を発して、辺りを照らしたからだ。
空に現われるは――
鏡合わせのように並んで浮かぶ、2つの丸い月。
「月だけじゃねえよ、櫂。あっち…」
煌が指さした先には、沈みかけの太陽が…やはり2つ。
そして遠くに…尖塔。
あれは…何だろうか。
「此処は…何処だよ!!?
異次元にでも、転送された気分だよ。
本当に此処…心の中かよ」
濃度が高まる瘴気。
姿を現わす景色。
此処が心の最下層にある場所だとしたら、この風景に意味はあるのか。
この生物に意味があるのか。
「風景が変わっちまったら…何処をどう進めばいいのかもさっぱりじゃねえか。アホハットとクマは…何処に行きやがった? ちゃんと道案内してくれるんだろうな」
抜けてみよ…そういうことか?
煌の舌打ち。
「巨大ナメクジだけじゃねえぞ。
何か…歩いて…何かが来てる」
俺も聞こえてくる。
ゆっくり、ゆっくり。
何かが足を引き摺るようにして、近付いてくる気配が。
この光景にある全ての"異質さ"が更に新たな瘴気を生む。
俺達にとっては、悪循環なほどに。
ひと言でいえば――
"最悪"。