シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「櫂、どうしようか。全て叩き斬れるかな、こいつら」
「同時消滅させないと、殲滅は難しい。しかも俺の力もレイ達も、効かない。頼れるのはお前しかいないんだ」
「だったら、ここは俺が…お前等を先に進ます時間稼ぎをした方が、得策だろうな。俺も正直、こんな気味悪いもん…全て相手にしてる暇ねえや」
孵化。
孵化。
蚕が蕩けて、中から出て来る。
出て来るときにはもう…色が変わっているということは、瘴気を通して…仲間が煌にやられたことを知って、憤ってでもいるのだろうか。
とにかく、既に戦闘態勢だ。
抜けきるのは…難しい。
しかし煌を1人残しては、俺は行きたくない。
煌を残すなら、俺も残りたい。
ああ、この瘴気。
吐き気がしてくる。
そしてふと思ったんだ。
吐き気程度?
此処までの瘴気を身に浴びて?
その疑問で再度あたりを見渡せば、ぐったりしている2体はあるものの、翠も異常はなさそうで。
始めに藤姫の『黒の書』の詠唱と同種の悍しさを感じながら、どうして俺は恐怖にのたうち回らない?
当初よりも濃い瘴気と未知なる異形の者を目にして、どうして俺は平気でいられる?
成長したから?
否。
俺の本能は答えた。
「煌…ひっかかることがある」
「あ?」
「俺、この規模まではいかないが、多くの瘴気を2ヶ月前…藤姫の詠唱によって、1人で受けた。あの時俺は、純度の高い瘴気を感じただけで発狂しそうだったんだ。だけど今、そこまでの恐怖はない」
「そりゃあお前、2ヶ月前は闇石は芹霞の中にあったからじゃねえか? お前今、闇の力取り戻しているんだから、だから防御みたいな…」
「違うんだ」
「何が?」
「闇の種類が」
上手く言い表せないけれど。
「藤姫の闇は…俺の本能が恐怖した。俺というよりは、人間が持つ…本当の恐怖を呼び起こされた。
人間が進化を繰り返した生き物で、尚且つ宗教的にも、魂の輪廻を繰り返しているというのなら。遥かなる太古より、原始の人間から引き継いだ、真なる恐怖。あれはその類だった」
「……難しいな…」
煌の眉間に皺が刻まれた。
「簡単に言えば、C級ホラーと同列に考えられるような代物ではないんだ。体が竦んで震えて、自制出来なくなる。
見た処…そんな奴は誰もいない」