シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「紫堂櫂、ワンコッッッ!!! やばい、やばいって!!! 何かが沢山来てるよ!!」
翠がぐったりしたままの2体を手に乗せて走ってきた。
その2体のぐったりの様には、やはり恐怖は見られない。
疲労だけだ。
「あのさ、何か歌…聞こえない?」
唐突に翠が聞いてきたけれど、俺は耳を澄ませてみても聞こえてこなかった。
「ワンコは? ワンコなら歌声聞こえない? なんか…アカペラの合唱というか、オペラというか…」
「歌声…って、ざわざわしている音のことかな。瘴気のざわめきだと思っていたけれど。……。歌と言われたら、何か…旋律めいているような…」
歌……?
「けどよ、誰が歌っているんだ? あの化け物共か?」
「違う気がする…。女の声っぽくない? 何か…聞いたことあるんだよな、この歌…。何処でだったろ。というかさ、元々この歌…タイトルも何もかも知らないんだよな、俺…。マイナーでも有名なのかな…」
「お前やけに絞って言えるな。けど…そう言われれば…俺もどっかで聞いたことあるかも知れねえ。何処でだったか…。おい、リス。ゴボウ。お前等はどうだ?」
「僕はお休み中…」
「我は力を供給中…」
「……判った、寝てろ寝てろ!! お前達に人間界の歌を尋ねた俺が間違いだった」
女の歌……?
俺では聞き取れない音を、煌と翠は感じ取れるのは実証済みだが。
『"つあ…太…に…沈…が長…』
俺には……いや待て。
僅かだけれど、聞こえてくるような気がする。
意味はなさない何か。
先入観が影響した、錯覚なんだろうか。
同じモノを翠と煌は聞いているんだろうか。
「ああ…もしかして。ワンコと初めて会った渋谷かな…」
翠が渋い顔をして言う。
「ほら、初めて黄色い蝶が出て来た時だよ。あの時、紫茉と逃げるのに必死だったけど…うん、あの時、Zodiacの曲と混ざって聞こえていた気がする」
――櫂様、渋谷の109の屋上から、歌を歌って飛び降りる女達が…。
「翠、聞こえるその歌の歌詞は?」
「え? ええと…」
翠は目を細めて耳を澄ましていたけれど、やがて聞こえる歌詞を追うように…辿々しく口にしたんだ。
「今流れているのは…ええとまた旋律が元に戻って、ええと…"湖岸に沿っ…て、波打つ…雲が破れ、二つあ…る太陽が…湖の背後に…沈み、影が長…く伸…びゆく…のは…カルコサ…の地"」