シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
恐らく同じだと思う。
俺には処処の言葉しか聞き取れないほど、微かにしか聞こえて来ないけれど、俺にも同じモノが聞こえているらしい。
一定した音量で聞き取れない俺は、なんとか旋律は聴き取れるものの、次番の歌詞までは、もううまく拾うコトは出来なかった。
「湖…2つの太陽…」
そしてその歌詞の内容が、今あるこの景色と妙に酷似しているというのなら。
「此処は――カルコサ、なのか?」
それは信じ難い舞台。
「カルコサ…って何処だ?」
煌が首を捻る。
「一縷のブログの名前であり…戯曲…『黄衣の王』に出て来る異世界。どんな世界なのかは俺もよく知らん」
「『黄衣の王』…なんか聞いたことあるな…。戯曲、演劇…って、俺、聞いた記憶があるんだけれど、誰にだったろう? お前や玲ではなかった気がする」
――そうだよ、如月くん。見るものを発狂させるという呪いの戯曲。それは知る人ぞ知る…古来から恐れられている、戯曲という名のれっきとした魔書だ。
そこで閃光のように、忘れていた記憶が蘇る。
――そんな闇の書物が…黄幡家に伝わっている。そしてそれが保管されている黄幡家の書架は厳重管理されていて、直系くらいしか目を通すコトは出来ない。俺なんかとてもとても…。
――その戯曲は、第2部を通読すると、発狂すると言われる曰く付きのもの。それを読んでいた直系が…憎悪に狂った上岐妙に殺されたんだ。簡単にね。
「ああ…計都だ。黄幡会"ディレクター"であり、一縷の義理の兄。ああ…しかし何で今まで俺の記憶に上らなかったんだろう。一縷には双子が居て」
――イチルと酷似した双子のオッドアイ。イチルかどうか見抜けない程、妙は嫉妬と憎悪に狂っていた。黄色い服を着ていたオッドアイを…首を絞めて殺したんだ。
――黄幡を継ぐ者は代々オッドアイなんだ。つまりイチルは直系だったんだけれど、片割れが次期当主に選ばれたから、養女に出された。
――イチルの黄色好きは、その片割れの模倣だった。そしてその片割れもまた模倣していた。
「それが、黄衣の王…か」
俺は、計都に関する記憶は、ほとんど薄れていることに気づく。
目立たない格好もそうかもしれないが、重要なことを言われているにもかかわらず、悉(ことごと)く…記憶から抜け落ちていることを。
強烈なインパクトあるキーワードがなければ、思い出せないとは何かおかしくないか。
桜華で真向かいで話した記憶があっても、計都自身の姿態を問われたら、こうだとはっきり口に出来ない程曖昧な記憶しかない。
存在を許容していても、構成する部分が判らなくなるなんて…そんなことがありえるんだろうか。