シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
不意に、"約束の地(カナン)"での久遠の言葉が芋蔓式に蘇った。
――この呪われた戯曲"黄衣の王"は複製(レプリカ)で、本物に比べたら呪力は大したことはないけれど…その戯曲に出てくるのが"黄の印"。
久遠も言っていた筈だ。
黄の印を記した書物を見せて。
――そう。各務には、屍食教典儀を始めとした、こうした怪しい本が書庫に貯蔵されていた。
そして同時に、もう1つの存在も思い出す。
――レグが所属していた秘密結社は、その名前の本を教典の1つに掲げていたらしいことが判った。
――屍食教典儀や黒の本らに並ぶ怪異の魔道書だ。
それは――
『De Vermis Mysteriis』
即ち、
『妖蛆(ようしゅ)の秘密』
――何故『妖蛆(ようしゅ)の秘密』ではなく『黄衣の王』の方が表に出ているのか。黄幡家について、詳しい所はオレも知らない。だが何十万冊の蔵書を誇る各務の書庫には、他家のことについて記載されていた書簡があったはずだ。今、司狼に調べさせている。もうそろそろ見つけ終わった頃だろう。
俺は、情報屋が手にしていた俺達の持ち物を思い出す。
遠坂が預ったという…ラテン語で書かれたレグの、いや久遠がまとめた紙に、そのことが書かれているのではないかと。
しかし半分は玲の元にあるから、もしかすると俺の手元にはないのかもしれない。
今、目の前に拡がるのは蟲らしき形態。
実際、東京では蛆が溢れかえった。
そして"ワーム"。
もしも言葉を引き金にして、未知なる生物が存在するのだとすれば。
此の世界が、それがありえる世界なのだとすれば。
「うわやばやばやば!! どうする紫堂櫂!! あのヌルヌルは繁殖して…なんか1つのでかい気持ち悪いの創り出してない!!? それに…来てるよ。近付いてきてるよ。何だよこの…"ずずっ"ていう、足引き摺るような音!! なんだよ"ふしゅう"っていう音!!!」
「なあ…あっちの湖の縁、なにかが陸に上ってきてねえか? うわっ、また真っ暗になった。この瘴気…以前の比じゃねえぞ!!?」
悪しき事態になる前に、1つ1つ潰していくしかないか。
今在る俺の手札を使って。
「煌…闇石を使う」
俺はポケットに入れていた…血染め石を取り出した。