シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「由香ちゃん。僕を榊だと思って良いから」
すると由香ちゃんは僕に抱きつきながら更に声を上げて泣いたんだ。
「兄貴、兄貴ッッッッ!!!! 会いたいよッッッ!!! 何処に居るんだよおおッッ!!」
僕は由香ちゃんの頭をよしよしと撫でながら、口惜しさに唇を噛みしめていた。
ここまでの慟哭を、こんな小さな身体に閉じ込めさせていたなんて。
ごめんね…。
やがて…由香ちゃんは泣き笑いながら身体を離した。
「すまない師匠。これは師弟愛だって、神崎には…ボクから謝っておくから」
「いいんだよ。芹霞だってそうしろって言うから」
「ぐすっ…ごめんね、師匠…」
「気にしない」
「うん…。胸ポケットのぐしょぐしょ…思い切り鼻かんだところだから、カピカピになっちゃうの、気にしないでおく」
「………。いいんだって……は!!!?」
その時感じた衝撃に、僕はぐるりと後ろを向いた。
「どうしたんだい、師匠!!!」
「僕の結界が…切り離された」
「切り……?」
「何でそんなことが出来る!!? 芹霞…芹霞に何かあったか!!?」
更にタイミング悪く、横の脇道から出て来たのは自警団で。
「往来の真ん中で大声を出して突っ立っているとは粛正に価する!!」
「名前と生年月日を!!」
「構ってられるかよ!! 免罪符見せるのすら面倒だ。由香ちゃん、行くよ!!」
そして僕は由香ちゃんを肩に担ぐと、自警団に向けて顎に盛大な蹴りを食らわせた後、身を捻りながら…その足をもう1人の自警団の延髄に叩き付けて、地に沈める。
「…ぐすっ…。ワオ…鮮やか…」
「ふふふ、由香ちゃん。飛ばすよ?」
そして僕は、由香ちゃんを抱えたまま元来た道を戻っていく。
笑った顔を由香ちゃんに見せてはいたけれど、内心はかなり焦っていた。
嫌な予感しかしない。
結界に何かの接触があって、結界力が薄れたというのなら判る。
だけど違うんだ。
僕の結界の効力が及ぶ領域が、そっくりそのままなくなった。
スポンと…抜け落ちてしまったんだ。
その意味が判らない。
とにかく…戻らないと。
「うっひょおおおおおお。この速さ…旭の"きゃははははは"を思い出す…ぅ」
由香ちゃんが何やら叫んでいたけれど、それは先刻までの絶叫とは違って聞こえたから、無視して僕は更に速度を速めた。
そして、塾に行き着いたんだ。