シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「陽斗!!!!」
芹霞の声に――
一瞬、立ち止まってこちらを振り返る。
野生動物のような金色の瞳。
それが芹霞に向かわれた時、その瞳の奥には焦れたような炎が見えた。
「お前、誰だよ…?」
芹霞の記憶がないのか?
僕や由香ちゃんの記憶もないようだった。
「女、お前の名前は?」
それでも、やはり気になるのは芹霞だけらしい。
芹霞は何かを考え込むような仕草を見せたまま、何も答えない。
「……答えないとは、ずいぶんと礼儀知らずの馬鹿女だな」
すると…芹霞の目から涙が零れた。
感極まったというように、震える唇。
芹霞は手の甲で涙を拭うと、つんとすました顔をしてにやりと笑う。
「芹霞。先に言っておくけれど、あんたの女にはならないからね!!!」
「誰もんなこと言ってないだろうが。自信過剰女。ぎゃははははは!!!」
そして――
「またな」
ふっと消えたんだ。
「陽斗、陽……」
手を伸して叫んだ芹霞が、床に崩れて。
慌てて芹霞の元に寄れば…
「玲くん見て…安心してから、腰抜けてたの忘れてて…」
「怪我はない? というか、足怪我しているね。よいしょっと」
僕は芹霞を両手に抱き上げると、由香ちゃんに言って芹霞の靴と靴下を脱がして貰い、腫れ上がっているその足首に唇をあてた。
「な、なななななな!!?」
「むふふふふふふふふ!!」
「治療だよ? じっとしててね」
にっこりと僕は笑う。
「師匠…!! ニャンコとかの荷物はボクが持つからね!! 思う存分どうぞ!! しかしニャンコ、おい…見事に奇っ怪な格好で伸びてるなあ…」
「玲くん…ねえ、恥ずかしいから…」
「ん…? 僕は恥ずかしくないよ?」
「玲くん…な、何で舐めるの?」
「そういう治療だよ? 塗り薬だと思って?」
治療は触れるだけで十分。
舌を動かさないといけない治療など、聞いたことがない。
これはただの僕の愛の押し付け。
「芹霞…。電話…誰にかけてたの?」
患部を舌でちろちろ舐めながら、目だけは芹霞に向けて、その反応を窺う。