シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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ワゴンの後部座席は折り畳まれたままで、フリースペースのような空間に僕達は乗り込んだ。


窓からは首都高の案内図が流れる。

高速に乗ったのか。


芹霞の足首に僕の力は即効性があり、由香ちゃんが銀の袋から取出してくれたテーピング用の包帯を巻けば、足をトントンさせても痛みはないようだ。


「玲くんありがとう」

「どういたしまして」


こうした眩しい笑顔が嬉しくて堪らない。

即効性が出る程には、朱貴と稽古をした甲斐があったということだ。


そしてまだぐったりとしているクオンの治療に移った時、芹霞と由香ちゃんは共に抱き合っておいおい泣き始めた。


芹霞は…由香ちゃんを無理させていたことを悔やみ、由香ちゃんも…芹霞を怪我させた原因を作ったことを悔やみ、互いにこれからの協力を誓い合って、ますます友情の度合いを深めたようだ。

女の子達の友情は、時に緋狭さんが好みそうな程にドロドロすることもあるけれど…芹霞達の友情は見ているだけで微笑ましい。

打算的なものが絡んでないのがとても心地がいいんだ。


クオンはまだ目覚めない。

しかし呼吸もきちんとしてるし、カバンの中を覘き込んで、出来る範囲で身体を触診する限りにおいては、外傷はない。

鉤爪の瘴気を極間近であてられたショックで、意識を失っただけみたいだ。


しかしなんて"奇天烈"な格好なんだろう。

スクールバックの丈夫なポリ素材を突き破り、なおかつ補強された底板までぶち抜いて、よくも手足を外に出せたもの。

更に手足より大きな頭を、無理矢理に外に捩り出して走ろうとするなんて、このネコの(おかしな)意地と根性は目を瞠(みは)るものがある。


だけど…何故、チャックから普通に飛び出てこなかったんだろう。


推測の1つとして…飛び出したら百合絵さんの反撃を受けるとでも思ったんだろうか。


所詮はネコの浅知恵。

ひと時の恐怖に負けたせいで、カバンから身体が抜け出られなくなったじゃないか。

これならカッターなりきちんとした刃物で、慎重にカバンを端から切りこんで行かないと、こんなキツキツな亀裂から無傷で身体を引き抜けない。


それでも――

こんな状態で、カバンの中にある分厚い教科書2冊が、クオンとカバンの間に重ねて挟まれていたからこそ、クオンの身体は鉤爪の餌食とならずにすんだことを思えば、結果オーライ…なんだろうか。


「あれ…?」


その"防護"教科書とクオンの身体の間に、ひんやりとした固形物もある。

目の前に取り出して眺めれば、僕の手からぶら下がっているのは…爪痕がついた銀色の2つの円環。


「これ…手錠…?」


何でこんなものが?


………。

つい最近、見たような覚えがある気がするんだけれど。

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