シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「ああ!!! 玲くんそれ…S.S.Aでカップルと当選品を"物々交換"した奴だよ。そういえば、あたしカバンの中に入れて持ち歩いてたんだ。だから重かったのか…。………。そういえば、相手カップルも赤くなってた、あの青い袋の中身は…」

「結果的によかったね、芹霞。そのおかげでこのネコ、刻まれずにすんだんだから」

わざと言葉を遮り、にっこり。


「そうだね。人生何が幸いするか判らないね。これからもお守り代わりに入れて歩かなきゃ」

芹霞もつられてにっこり。


よし、注意がそれた。


「ん……? 何だこの紙袋の切れ端…。ニャンコカバンから落ちたのか? 『拘束館』…? ………。師匠達…頼むからアブノーマルに走らないでくれよ…?」

そんな由香ちゃんの嘆きは露知らず。


とにかくも、こうした"盾"がなければ、柔らかなクオンの身体など、鉤爪の前には"輪切り"がイイトコ。

奇跡的に命が助かっても、もうそれは美ネコではなく、真実…化けネコだ。

このネコがそこまで考えてこの"鎧"姿になった…のかは判らないけれど、少なくともクオンが走ったのは、芹霞の"脅威"となる陽斗の存在を感じ取って、それを排除する為だと思うんだ。


しかし…陽斗の姿は、クオンにも見えなかった。

だから無防備に、鉤爪の攻撃を受ける羽目になってしまったんだろう。


陽斗も…狩る理由が、2ヶ月前と同じ"血色の薔薇の痣"の少女だというのなら、それ以外であるクオンのことはどうでもよく、だから追撃するまでには至らず、だからこそクオンは命を絶たれることはなかったのだろうと思う。


"ありえない"中での、不幸中の幸い。


見える、見えない…そんな問題ではなく、心臓を取り出して、肉体的な終焉を迎えたはずの陽斗が、この世にまた出現したということがありえない事態。

これはどんな意味があるのだろうか。


ただの模造品(コピー)か…本当に蘇生したのか。


「どんな陽斗でも…生き返ってくれているのなら、あたし嬉しい…。だってね…陽斗、あたし達が初めて言葉を交わした時と同じ台詞を言ったんだよ? そして"またな"って言ってくれた。敵だとしても…また陽斗に会いたい。あの"ぎゃはぎゃは"聞きたいよ」


芹霞は泣いて喜び、僕はまた嫉妬にもやもやするけれど。


「師匠…心臓がないままに生き返れるものなんだろうか。"誰か"の手によって、別の心臓を移植されて生き返ったのかなあ。それとも実に綺麗な身体したゾンビ? 服剥いだらグロいゾンビとかアリ?」


こっそりと聞いてくる由香ちゃんに、僕は曖昧な笑いを返すしか出来なかった。
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