シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
最期の陽斗は…今まで見た中で、一番満足そうに安らかな顔をしていた。
それを第三者の"思惑"でその眠りから起こし、再び"道具"として利用しようとするならば、僕としては激しい憤りを覚えるんだ。
例え今が、2ヶ月前には見出せなかった…、『元気な"人間"の芹霞と共に生きれる』選択肢(ルート)に流れているのだとしても、それでもあの時の真摯なる陽斗の心を尊重したくて、陽斗を"殺して"しまった僕としては、正直…気持ち的には、"蘇生"であって欲しくない。
あの時の陽斗の愛を…純化したまま保存させておきたいんだ。
だけど芹霞の敵となるというのなら。
感情論に流されて曖昧のまま過ごすことは出来ないだろう。
芹霞は陽斗に絶対的な信頼を置いているから、警戒心というものは薄い。
陽斗に芹霞を攻撃させたくないだ。
それはあまりにも哀しすぎる。
話し合うことで、陽斗が昔の記憶を取り戻せるのなら。
僕は自分の体を張ってでも説得したい。
しかしそれは、さっきの陽斗が2ヶ月前の陽斗だったら、の場合。
まるで他人なら、意味はない。
陽斗を冒涜する者には、僕は先刻みたいな遠慮はしない。
2ヶ月前の身体の蘇生かどうかは…雑司が谷にある墓地を確かめるしかないだろう。
陽斗が持つ携帯は、芹霞の短縮「8」で繋がったという。
その事実から思えば、あの陽斗が持っていたものは芹霞のものである可能性は非常に高いけれど、同じモノが今も陽斗の屍と共に墓地にあるかないか…少なからず裏づけをとるのは必要だ。
その結果如何で、推測も変わっていく。
「なあ神崎。その…身体は大丈夫か?」
「身体?」
「うん。陽斗を思い出したことによって、心臓が痛いとか…気持ち悪いとか眩暈するとか……」
「ううん? むしろ心がすっきりとした感じ。思い出したくて溜まらなかったのを思い出せた…そんな爽快感が強いよ」
僕と由香ちゃんと…何とも複雑な顔を見合わせた。
同時に僕は思う。
芹霞は…思い出したくて仕方が無かったんだ。
記憶を無くすことだけが幸せの道ではないのだと。
それは僕の心に、棘のように突き刺さる。