シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「だけどあたし何で、あの""ぎゃはははは"を忘れられてたんだろう。盟友失格だわ…。自分が情けない。だから陽斗が化けて出て来たのかな…」
「恨めしくて…怨霊ではなく本当に生き返るっていうのも…何ていうか、ファンタジー過ぎないかい?」
ねえ芹霞。
君は…思い出したくて思い出したくて仕方が無いんだろう?
――紫堂櫂を愛してる!!!
あの時の情熱、12年間の思い出。
だから陽斗の思い出を一度リセットさせて、共に思い出そうとしたんだろう?
ねえ今――
「芹霞、思い出したのは…それだけ?」
君の心を占めるのは誰?
「それだけって…陽斗の記憶は詳細で明瞭だから、全部思い出したと思うよ?」
「陽斗のことじゃない」
苦しくて堪らない。
僕は後どれくらい、不安に思って行くのだろう。
解放されたい"罪悪感"。
解放されたくない"優越感"。
両者が鬩ぎ合うこの苦しみ。
「櫂のことは?」
微妙に、芹霞の表情が崩れた。
それを見た僕は――
今までにない"反応"を感じた僕は――
「!!!」
思わず震える唇を噛みしめた。
「神崎、紫堂を…思い出したのかい?」
すると芹霞は静かに頭を横に振ったんだ。
僕の予想に反して。
「頭に声が聞こえた。だけど頭が痛くて吐きたくて…身体が思い出したくないと拒んでいるの。だけど…"知らない"人ではなかったことだけは何となくだけれど…判った。そんな程度…」
その表情が哀しげに見えてしまう僕は、ただ微笑むしかできなかった。
芹霞が安心して笑えるように、僕はいつもの通り…心を隠して微笑むしかできなくて。
本当は…思い出せないくらい、僕のことで心を一杯にさせたい。
深く深く…その心も身体にも、僕の印を刻みつけたい。
他の男の元に駆け出す足を切って監禁してでも、他の男の記憶など思い出すゆとりもない程に、絶え間なく抱き潰して…僕の愛だけを注ぎ込みたいくらいなのだけれど。
例え、僕の狂いの血を狂喜に騒がしてでも。
陽斗の記憶が戻ったのなら、櫂の記憶が戻るのも時間の問題だろう。
陽斗が絡んだ2ヶ月前は、どうしても櫂の存在がネックになるから、櫂なしには完結出来ない。
僕は芹霞の心を待つつもりでいたけれど、実際こうした現実を突き付けられれば、絶望へのカウントダウンが始まっているような切迫感が強まって。
「………っ」
息をするのが苦しくなる。