シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
ほっこりウサギ…このマスターが描くのか?
………。
喜ぶのは…あの阿呆タレくらいだな。
――イチゴ!!! ウサギ!!! きゃ~!!
あいつ以外の需要なんて――
『大人気!!!』
…あるのかよ!!!?
此の喫茶店、どう見ても女ウケする場所じゃねえぞ?
しかもあのマスター、素人じゃねえし。
それなりに修羅場を潜ってきた者なら、そいつが纏う空気で素人か玄人か鼻でかぎ分けることが出来る。
かなりの手練れと見た。
何より服の上からでも判る肉体(ガタイ)のよさが、異常すぎるだろ。
それこそ緋狭姉が目指す、体脂肪率何%以下だかの身体だ。
そんな男が作るのは、女ウケする…肥満まっしぐらの甘い飲み物。
見た目のハードボイルドさとは縁遠い。
………。
何だ此処。
何だこのちぐはぐさ。
警戒心を煽られた俺は、アホハットという存在を含めて、置かれている状況を懐疑的に思ってしまう。
「大丈夫だ、煌。殺気はないし気配はマスターだけ。誰かが隠れているわけでもなさそうだ」
ということは、櫂もまた…警戒していたんだろうけれど。
俺は、何が何でも櫂を守らねばならなねえんだ。
もしアホハットが俺達を嵌めたのならば、全力で此処を突破してやる。
そんな時、マスターが最後にソファに座ったクマと顔を合わせた途端、スタスタと歩いて外に出て、表にあった小汚え看板を中に入れて閉まってしまった。
「あ!!?」
俺達を――
閉じ込める気なのか、追い出したいのか。
思わず声を出して立ち上がろうとした俺を、向かいに座るクマが手で制す。
「がはははは!! 大丈夫だ。此処を貸し切っただけだ」
そう言ったのは、クマで。
「情報屋が先に話をつけていた。
元より、そういう約束だ」
知らぬ間にクマとアホハットの間に、どんな取り決めがあったのか判らないけれど、アホハットよりクマの方が信頼出来る気がする。
やっぱ…毛は黒だよなあ…。
「がははは!!! なんだ、俺の毛が羨ましいか!!!」
「何でそんなに成長早いよ?」
「柿ピーのおかけだ、がはははは!!!」
柿ピーは、育毛促進剤的な効果があったのか!!?
世紀の発明だったのか!!?
すげえぞ、柿ピー!!!
「煌」
櫂が、哀れんだ目をこちらに向けた。
「柿ピーは、腹の足しにしかならない」
………。