シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「百合絵さん、何かあった?」

「いえ」

「その割には随分動揺しているじゃないか。水臭いよ? 困ったことがあるのなら、一緒に考えたいよ。お願いしていたこと関係?」

「いえ」

「じゃ朱貴に何か言われた?」

「いえ」

「朱貴だね?」



「由香ちゃん…どうして玲くんとの百合絵さんとの会話、進んでいけてると思う? "いえ"しか言ってないよね、百合絵さん」

「師匠みたいな繊細な心の持ち主は、百合絵さんのような微細な心の揺れが判るんだろうよ」


その時僕は…フロント硝子から首都高の案内図が目に入った。


………。


「桜のことは朱貴から聞いた?」

「はい」


何だ…この"違和感"。

まるで人形相手にしているような…。



"人形"。



僕の目は…自然と、肉に埋もれた百合絵さんの小さな目に向いた。


………。


僕は後部座席に戻る。


「あれ、早いね、玲くん」

「原因は判ったのかい?」


僕は2人に耳打ちした。



「荷物纏めて。此処から出られる準備だけはしておいて」


「「は?」」


僕は唇に人差し指をあてて声を鎮めさせた。



「この車は池袋には向かっていない。

逆に向かっている」


この車に乗り込んだ時に見た案内図。

フロント硝子越しに見た案内図。


それは飛ばしたこの車が、どの向きに走行していたのかを示しているもので。


確実に…鎌倉に向かっていたんだ。

即ち、皇城本家がある場所へと。



そして"異変"の決定的な事象がもう1つ。


「百合絵さんは!!?」

「操られているのか!!?」


潜められた声に僕は首を横に振る。


「運転しているのは…百合絵さんじゃない」


僕が助手席から窺い見た百合絵さんの目は――


「"約束の地(カナン)"でも見た人形…」


オッドアイだったんだ。





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