シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

正体 煌Side

煌Side
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夜空に浮かぶ2つの月と2つの太陽。

薄暗い光に照らされて見えるのは…遠くに尖塔、拡がる湖。

漆黒色の中、瘴気の揺らぎと…沢山のナメクジから孵化する"何か"の発光によって見えてくる異世界の光景。

孵化して出てくるものは何かは判らねえが、まるで磁石にくっつくようにして1つに集合化し、巨大ナメクジとなっている。

更に触手を伸してまだ孵化していないチビナメクジまでも、次々に取り入れて、むくむくと歪な様相で大きくなっていやがる。

もうナメクジのような滑らかな輪郭はねえ。

怒鳴りつけてやりてえ程、醜悪な化け物だ。


そして、ぼんやりと…月か太陽かの微光を反射する湖からは、何かが陸に這い上がり、足を引き摺るようにしてこっちに歩いている。

人型には見えるが、最初はどんな姿態かよく見えなかったけど、俺…視力だけは櫂よりいいんだ。

櫂が気づくより早い時点で、それが何か…見えたんだ。


「うえっ…」


俺の心の声と同時に聞えるのは小猿の声。

こいつの視力もいいらしい。

そして小猿は、両手に乗せたチビ2体を前に差し出すような格好で、白目剥いて口から泡吹き出して気絶した。

チビ共を落さないという心理が働いたから、こんな変な格好になったんだろう。


そいつらは――

体躯は小さな子供くらい。


しかしその身体に"肉"はなく、首と手足が異常に長い…骨に干からびた皮が張付いている。

まるでミイラのような"そいつら"は、長い両腕を前に突き出して、のろのろとこっちに歩いてきている。

ああ…俺が今まで見ていた"生ける屍"の老化バージョンかよ。


それだけじゃねえ。

そいつらが触れる処が…枯渇していくんだ。

仲間であるはずのナメクジすら、少し触れただけだというのに腐敗して粉塵化してしまう。


触れられねえならどうするよ。

こいつらわんさか増えてるぞ?

後ろのナメクジは凄え大きさだぞ?


誰を頼ることもしたくねえ。

ここは俺が守らねえと。


偃月刀を握りしめ、俺が盾となり皆を逃がそうとした時、櫂が……あれだけ禁じていた闇の力を、突然使うと言い出したんだ。


「……我が元に集え!!!」


続いて口にしたのは、闇の力の制御でも飛散でも放出でもなく…収集だった。


確かに櫂は、こうした異空間に連なる"闇"の属性だ。

怖じけることなく立ち向かうのは流石だとは思うけれど、何で今、石に力蓄えるよ?

お前、東京を破壊させる寸前だった闇を、制御できる程の力があるじゃねえか。


今…この場を覆っているのはただの闇じゃねえ。

この闇が膨張して、変なものを象って、更に殺気を強めて…、俺達の危機度はMAX、切迫しているというのに。


………。

ああ、"だから"の結論だとしたら。


お前…この闇を石使ってどう利用しようとしているんだ?

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