シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
闇がゴオオオオという感じで、櫂が頭上に翳した血染め石に吸い込まれていく。
言うなれば…石という掃除機で闇というゴミを吸い込んでいるような。
それでも。
瘴気は移動しても、異形の奴らはの時間は止まらねえ。
流れている瘴気とは独立した形で、瘴気が凝り固まって出来た存在なのか。
櫂の石は…固形物は吸い込めないらしい。
ナメクジは最終形態なのか…見るだけで目が腐ってきそうな奇怪な輪郭を形成し始めているし、老いた屍は数を増やして…応急処置的に作った俺の炎の壁を突破しようとしている。
逃げ道は…ねえ。
あの中を突っ込んでいくしか。
やはり、俺が囮に…。
その時、櫂は叫んだんだ。
「ワマス ウォルミウス ヴェルミ ワーム!!」
一体何処の言葉なのか。
何を言っているのか。
櫂は言葉を理解して、使っているのか。
正体不明の声が奏でた言葉を今度は櫂が口にして、俺に叫んだ。
「煌、動くな!!!」
そう言うけれど。
「闇は我が支配下に!!!
我が言葉に従いたまえ!!!」
凛として響く櫂の声。
「ワマス ウォルミウス ヴェルミ ワーム!!」
櫂が唱えるその言葉からは、悍ましさは感じねえ。
逆に闇を宥めているかのような優しさすら感じるのは何でだ?
あれ程殺気だって荒ぶっていた瘴気が落ち着き、大波のような闇の奔流が勢いを留め、落ち着きながら石に吸い込まれているのを感じる。
櫂の力には散々俺…驚かされてきたけれど、この闇の力というのは圧倒的で。
なんというか…俺の思考では理解できない異質な凄さがあるんだ。
以前"約束の地(カナン)"にて、芹霞と共に闇の力を使ったことがあったけれど、そのほんの僅かな力に触れただけで、俺の身体は悲鳴を上げた。
それを平然と受容できる櫂は、一体何者よ?
「紫堂櫂が光ってる…」
いつの間にやら意識を戻し、あんぐりと開けたままの小猿が、震えた声音を発した。
俺の角度からは見えにくかったが…ああ、櫂がぼうっと光っていたんだ。
厳密に言えば…櫂の首元。
黒い薔薇の痣が発光源。
そして――
「あるべき闇の姿に戻れ!!!」
化け物の形が目の前から、薄まって消えていったんだ。
一斉に。
同時に、異質なモノではなく、常日頃"慣れた"殺気が飛んできた。
これは"人間"のもの。
だとすれば、俺担当だ。
俺の身体は瞬時に動く。
相手の動きは、表世界の…名だたる"刺客"とは比べ物にならねえくらい早く、特殊加工された…俺の元同僚レベルのものだ。
だったら、俺が抑えずしてどうするよ?
偃月刀など使うこともねえ、ただの体術で十分。
そして両手でそれぞれ捕まえたのは――
「人間…だよな?」
忍者のような黒装束をした…2人。