シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
場に響いた鋭い2つの声により、動作していた全ての動きはぴたりと止まり、飛び交っていた全ての殺気が消える。
そして――
俺達に敵意を剥き出して襲いかかってこようとした黒装束は、全員…その場に片膝をついて頭を垂れたんだ。
今、此の場に立つ者は、俺達と――
ザク、ザク、ザク…。
その中をゆったりと…悠々と歩いてくる奴だけ。
場は…足音以外、不気味な程に静まり返っていた。
それは一触即発寸前のような、決して気を抜けない危殆を孕んでいる。
ザク、ザク、ザク…。
夜空には2つの月と太陽。
光が反射した湖の奥には、小さな尖塔のシルエット。
揺らぐ要素が無くなった今、それは固定化された光景となっている。
景色は以前と変っていないはずなのに、あるべきものが全て消失してしまった今となっては、これこそが"異質"であるように思えるのが不思議だ。
そう、瘴気や化け物というメインが無くなって、オプションだけが取り残されているような…そうした不自然かつ不完全さが、妙に居心地悪い。
ザク、ザク、ザク…。
砂利のようなものを踏み潰して、規則正しい律動で歩み出て来たのは――
「!!!!?」
前髪ぱっつん、腰までの黒髪。
着物姿の小さい幼女。
リアル"こけし"。
その顔は――…
「「藤姫!!!?」」
目許に3つのホクロをつけ、艶然と笑っていた…見知った顔で。
俺と櫂は同時に声を上げ、俺は櫂の前に立つ。
"こけし"は毒々しいほどに真っ赤な唇をゆっくりと開いた。
「あやつ…己を『姫』と呼ばせていたのか。何と痛々しいことよ…」
しかし"こけし"は、俺の予想に反して…藤姫に対して敵意にも似た毒を吐くと、自嘲気に笑って俺達を見た。
「あやつと同類にされるなど、虫酸が走る」
この"こけし"は一体…?
藤姫の…縁者か?