シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「勘違いするでないわ。お主らが知る『藤姫』たる者の最後の顔は、緋影の女の顔であろうて。お主らは100年以上も前の、あやつの顔を知っているわけではなかろう?」
まあ…確かに。
言われてみれば、俺達が2ヶ月前に相対した藤姫の顔は、篠山亜利栖(ささやまありす)という名の、18歳の…緋影の末裔だった。
その顔とこの"こけし"が似ているのなら、この"こけし"は亜利栖と同じ顔だということになる。
「あやつは…我が一族の面汚しよ…」
何処までも冷淡な口調。
"我が一族"
ということはつまり…
「緋影の…者だな」
櫂が俺の前に出る。
「左様。正しくは…者だった、と言うべきか」
くつくつと…身形からは想像出来ない程に、大人びた笑いをするこけし。
「そなたに聞く」
こけしの顔から、すっと笑いが消え、櫂に対峙する。
万が一を思い間に立とうとした俺は、櫂の手に制される。
「大丈夫だ」
そう言われたら引き下がるしかねえけれど、もしこいつらが変な動きをすれば、櫂を守るだけの警戒は高めている。
「ふふふ、よくこの"狂犬"を手懐けたものだな、紫堂櫂とやら。まあよい。いつから…気づいていた?」
「それは…異空間を"作って"いるのが、お前達だということについてか?」
「如何にも」
櫂は薄く笑う。
「俺は…闇の力を持つ。そして奇しくも…2ヶ月前、真実の"闇"の一端を、お前が嫌う藤姫によって味合わせられた。その時ほどの恐怖がない。だからこれは自然発生したものではなく、故意に…人工的に発生させたものではないかと思った」
「ほう……」
「ただ普通の"幻覚"ではない。忌まわしき『黒の書』と同類の闇の匂いはしていたからな。そういう類のものに精通している者が暗躍しているのは間違いない。そして聞こえた"ワーム(蟲)"、"カルコサ"。そこまでヒントを与えられれば、」
こけしの大きい目が細められた。
「此処には…魔書があるとしか思えない。『妖蛆の秘密』あたりか『黄衣の王』…ああ、黄衣の王』に関しては、原書は黄幡家にあるのかもしれないが。
ただその力は、藤姫のような私利私欲目的に用いられてはいないはずだ。それは裏世界に不用意に入ってこようとしている者達を見定め淘汰する為」
こけしの表情は変らない。