シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「此処が"救済"しているのは…"畸形"と呼ばれる者達以外に、"力"を持つ者も含まれているはず。即ち――紫堂に入り損ねた異能力者達、緋影を含めてな。
だからこそ、その者達の力によって、魔書の"実践"ではなく、"模倣"が行われた。実践してしまえば、下手すれば此の世界も滅ぶ危険性があるからな。お前達が制御出来る範囲で、限りなくリアルに、限りなく恐懼に陥れる為に…一部模した。
つまり、人の心の奥底にある原初の"恐怖"を、魔書に出る化け物という形を使って呼び出し、守護者(ガーディアン)として追い払おうとした。…違うか?」
あの化け物達は、力が創り出した…人工的なものだと、櫂は言うのか?
は?
あいつらが…作り物!!!?
小猿及びチビ共は黙って櫂達の会話に耳を傾けているようだ。
「一種の…言霊だろう。力ある者によって、"ワマス ウォルミウス…"に連なる言葉で誦唱されたものは、"副産物"とでも言うべき瘴気を魔書に模して、未知なる化け物の幻を生み出していた。
だからこそ俺は、瘴気を取払い…逆にその瘴気を言葉に還すことを試みた。もし成功するならば、そこには此の場を傍観しているはずの者達の"意思"が見えてくるだろうと」
その"意思"を持つのがお前達だとでも言うように、櫂はじっとこけしを見据えた。
暫しの対峙。
互いの瞳の中から、腹の底を探り当てようとでもしているんだろう。
やがてこけしは言った。
「妾(わたし)が何者かを知った上で、あの2人に"調和"を申し出たのか」
「俺達は此処に来たばかりだし、一切の情報は与えられていない。案内人(ガイド)も雲隠れだ。だから俺達はお前が誰だかは知らない。見た処…長のような立場のようだが」
するとこけしは、狂ったように笑いだす。
「愉快、これは愉快!!! 聖とレオは…妾のことを告げずにいたのに、この者は本能で…妾達を説得しようとしたのか。何たる肝の据わった剛胆なる奴よ」
「お前…アホハットとクマの知り合いなのか!!!?」
「アホハット…聖のことか? ならばレオが…クマ!! それはよい、アホハッ…はははははは」
こけしは、意外と笑い上戸らしい。
「ゆ、夢路様…」
更にこけしは夢路という名前らしい。
ひくひくと体を震わせて笑い続けるこけしの元に、流石に心配したのか…黒装束の1人が、恭しく声をかけた。
「ひ…ぃ…ひぃ。狂犬よ…妾のことは何と?」
「あ? こけし?」
「こ、こけ…はははは。こけ…こけ…」
ああ…こけしは、鶏になっちまったよ。