シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
こけしが静かに赤い唇を動かす。
まるで艶めかしい…赤い蛇が体をくねらせたかのような印象を受けた。
やはり…藤姫を彷彿させてしまう姿態。
何で此処まで似ているのかな…。
「そなたの言う通り、此処は情報通の世界。しかも久涅は過去、確かに此処にいたことがある」
こけしの答えに、櫂は再び訊く。
「此処で何をしていた? 目的とは何だ?」
牛女をちらりと見ながら。
「その前に…この景色をやめようか」
唐突に、突拍子もねえこと言い出したこけしは、その場でパチッと指を鳴らすと…
「!!!?」
櫂が"カルコサ"と呼んだ、2つの月と太陽…あの湖の薄気味悪い風景が、まるで紙芝居のように切り替わって。
「こちらがよいか? ふむ…こちらがいいか。それともこちらがいいか…」
パチ、パチ、パチ。
切り替わって行く風景に、俺はただ唖然とするばかり。
荒野あり、草原有り、東京あり、外国あり。夜あり昼あり…何でもあり。
このこけし…何者よ。
この世界は一体何よ。
「これにしておこうか。黒装束にはお似合いの風景だろう」
そしてこけしが満足気に笑って見せた風景は、質素な掘っ立て小屋が並ぶ…密やかな忍者の隠れ里…のようなもので。
あれだけ薄暗い奇妙な景色が一転、燦々と輝く太陽に照らされる。
そして改めて見れば、取り囲んでいた黒装束の多さに呆然とする。
「櫂、どういうことだよ、何で風景が変ったんだ?」
「煌…。俺の力は、この光景を破るまでの力はなかった。その光景を自在に変えれるのは、夢路さんの力は俺より上ということ。
そして光景を変えて見せたということは、此処の本拠地は俺達に見せたくないという…警戒心の現れ。つまり俺達はまだ、信用されたわけではない。核心に至るまでの情報開示は許されていない」
そして櫂は正した姿勢のまま、こけしを見据えた。
「答えを求めるのなら、ますば信用させてみよ…そう言いたいのだな?」
牛女が緊迫した空気に震え、こけしの頭上から乳がずり落ちたが、こけしは…やはり慣れているように乳を押し上げ、元の位置に戻しながら、薄い笑みを顔に浮かべる。
何とも律儀なこけしは、ゆっくりと言った。