シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「この者達は、皆…"異質"な理由にて、"表"にて拒絶され、利用され…迫害され続けてきた者達。そなたが"表"の者であり、なおかつ美丈夫な上に、特別待遇された"紫堂"の者だと判れば、そこから弾かれた者達の憎悪はそなたに向く。そなたの言葉は、弱者に対する優越性から来る自己満足的なものとしか受け取れぬ。例え…異種の者を従えていようと」
それは、今まで笑い転げていたこけしから出た言葉とは思えぬ程、辛辣で。
如何にこちらの心を見せようとも、如何に訴えようとも…、受け手の心を開かねえ限りは、飾り物だと言われているように思えた。
全ての相手が、チビリスやゴボウのように…或いは小猿のように、俺らと好意的に迎合するとは限らねえ。
思えば、小猿は…、偉大なる血に劣等しながらもそれを誇りとしているように、チビリスはリスということに劣等しながらもリス生活を満喫しているように、金ピカゴボウは戦神なのに、見るからに弱っちい小猿を第一に…忠実な式神をしなければならないように。
劣等や悪状況に勝る矜持があるから、それ故に俺達と対等の立場で居られた。
だから友好関係を築くことが出来た。
しかし、"表"によって矜持を破壊され、"裏"で引き籠りになって独自の世界を築いている奴らに、どんなに"表"の櫂の凄さを語っても、それは相容れねえ…"自慢"にしか聞こえないのも判る気がする。
じゃあどうするよ?
「妾はこの者達を取りまとめる役。この者達を納得させねばならぬ責務がある。そなたの"事情"を知らぬ者達に、何と納得させる?
よいか、ここは妾達の独壇場。何故此の地を与えられているのか、考えてみよ。"表"を嬲り虐げる…その憎悪の消化を生き甲斐にするからこその"裏"の守護者。
それを知らずに全攻撃を受ければ、仮に全て凌げたとしても…"表"でいう10日は過ぎる。いや、妾が10日はもたせてみせる。その間に…"表"はどうなっておるか」
くつくつくつくつ。
櫂の返答次第では、全攻撃も辞さないと匂わせて、そして同時に、"表"事情は何でもお見通しと言わんばかりに、こけしは余裕顔で喉元で笑う。
ああ…本気で藤姫が復活したような残虐な笑みに思えて、胸糞悪い。
牛女も異常空気を感じ取ったか、こけしの頭の上の乳を激しく揺らしている。
そんな中、櫂は目を伏せ静かに笑った。
「俺は今の境遇を自慢しに来たわけでもない。同情されに来たのでもない。俺は…誰かが脚光を浴びることによって犠牲になる者がいるのが単純に嫌なだけだ」
そう告げる櫂の頭には誰の顔が浮かんでいるのだろう。