シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「紫堂は…恵まれた家だ。本来俺は、皆と共に此処に住んでいたかもしれない人間。紫堂に生まれた俺がたまたま運が良かっただけのこと。

ただそれだけの優位性だけで、此処の守護者(ガーディアン)たる力を発揮できる…本来紫堂の仲間たる者達がこんなにもいることを知らずに、"裏"に追いやって安穏と暮らしていたという事実こそが、俺の憂い」


場はしんと静まり返っていた。

静けさにあるのは、微かな細波。

少しずつ…浸透していけよ。

8年前の俺を変えた…櫂の心、皆も気づけよ。


「光ある処に影は出来る。しかし…光が"表"だと、誰が決めた? 光も影も関係ない。大切なのは表裏一体、両者がなくてはならぬ関係だということ。どちらかを現存し、どちらかを消滅させようとすれば…生きるという本質自体を見失うだろう。五皇の1人であった亡き白皇が理想とした"約束の地(カナン)"のように。

かつて紫堂が創り出した"殺戮集団"もそう、白皇が創り出した"傑作"もそう。

驕れる者達の犠牲になっている者達は、いまだ逃れきれぬ呪縛に苦しみ続けている」


そう…俺を見る櫂の目は哀しげで。

俺が違うと言い張っても、櫂は生涯…自分を責めていくのだろう。

自分が犯したことではなく、自分の血筋が犯したことなのに。

だからこそ櫂は、それを教訓にして…自ら紫堂を変えようと改革をしてきたんだ。

もう二度と、犠牲者が出ないようにと。

口だけではない、信念だけではない。

きちんと実行に移し、隠され続けてきた古い体質を粛清してきたこと…それを判って欲しい。


だけど櫂はそれを言わない。

『気高き獅子』としての自らの功績は一切口にしない。


言うのは――


「紫堂は煌を痛めつけたのに、それでも煌は、8年も…直系である俺を守り続け、友と呼んでくれる。

"約束の地(カナン)"の呪縛を受けた久遠は…"表"に生き続ける俺達に自由を与える為に、今…光が差込まぬ場所で、俺達の為に…俺達が追うべき業を代わりに受けている。

そして俺が"裏"に来ることで、"表"の攻撃を…俺に代わって一身に受ける玲もいる。

俺は…皆に助けられて此処まで来た。そして、煌も翠もレイも護法童子も…皆、俺を信じて共に強くなるために進んできた同志だ。誰が上になることも下になることもない。誰かの弱さは誰かが補う。そうやって俺達は此処まで歩んできた。決して…俺だけの力ではない」


俺達のことばかりで。

もっともっと言いたいこと、優位に訴えられる凱旋的エピソードは沢山あるのに、俺達のことを前面に押し出すその心が、無性に泣けてくるんだ。
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