シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「なぜそこまで調和に固執する。何故妾達と戦い、或いは突破の方法を考えぬ?」
だから裏があるのではと…そう言外に語るこけしは、忍者達の心を代弁しているのだろう。
素直に物事を聞けなくなってしまった奴らの。
「"生きたい"という渇望がありながら、此の地で生きざるを得ない…こうした不条理で差別的な世界を見過ごしていくことが出来ないんだ。例えその為に世界の均衡が狂っても、俺は…同じ人間として、行きたい場所で生きれる…普通の権利を守りたい。
そしてそれは…"紫堂"の責任でもある。無関係ではないのだろう。"裏"と紫堂は」
「そなたは守ると言うが、紫堂での権限は何もないのでは? それでどう守るというのだ。具体性は?」
櫂は口を開きかけ…そして噤(つぐ)んだ。
「此処を見て、今まで漠然として思い描いていたことを…実現したいと思った。いや…実現してみせる。そうすれば可能だ」
こけしの笑い方が微妙に変ってくる。
何と言うか――
「ほう…それは?」
"満足そう"なんだ。
「今は言えない。お前達を納得させられもしない俺の言葉など…余計薄っぺらく感じさせてしまうだけだからな」
櫂は…何をしたいと思ったんだ?
「さて、皆の者。そなた達が渇望する姿態と権力を持つ男が、その身と引き替えに、仲間を通して、更には協定を結んでくれと言っておる。どうするか」
静まり返った中、1人の黒装束の男が低頭したまま進み出る。
「恐レなガラ夢路様。これハ罠かト。我らを油断サセて…突破シヨうとシテイルかト。"表"ではソンな者達がごマント居まス」
「そなたは信じぬのだな?」
「はイ」
「信じられないという者達は、此処で立上がって見せよ」
すると…半分以上が起立する。
正直、この数には驚いて。
表世界では櫂の言葉は…初対面の奴でも絶対的効果があったから。
どうして通じない!!?
「ではそなた達に聞こう。どうすれば信じる?」
「覚悟を体現しテ貰いタイ」
その声に同調が上がる。
「自害しろと…言いたいのか、そなた達は」
「はイ」
冗談じゃねえ!!!
「させねえよ、絶対!!!」
俺は櫂の前に立つ。
「僕だってさせないよ!!!」
「俺も。ゴボウちゃんもね」
「左様」
「煌……俺は…」
「嫌だからな。絶対絶対、お前が何と言おうと、それだけはさせねえからな。無論、お前に傷なんてつけさせる気ねえから、俺は!!!」
「違う。俺は…」
そして櫂は言ったんだ。
「俺は…覚悟を"死"では表わさない。死は…あまりにも"無"だったから」
そう自嘲気に笑った。
では…どうする?
俺は…偃月刀を握り締めた。