シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
喫茶店に流れる音楽が、変拍子の律動(リズム)を刻んだ。
掠れたサックスの音が、ピアノの旋律に艶めかしく絡みつく。
そんなジャズが、この喫茶店にはよく似合っている。
忙しい曲だが…マスターの趣味はいいと思う。
ここが裏世界と無縁の場所で、甘いものなど出さぬ場所ならば、落ち着き払った大人の憩いの場に最適だと思う。
穴場だ。
そこに今いる客は、15の子供と17の子供が2人。そして毛むくじゃらでどんな顔をしているかもう思い出せねえ謎のクマ。
このご一行はまるで似つかわしくねえと思いながらも、翳りある端正な横顔を見ていれば…俺の幼馴染だけは妙にマッチしていることに気づく。
無彩色故に光を出す、漆黒の俺の主。
決して華々しい光を放たなくとも、それでも重い存在感を主張する。
それが意識的ではないという処が更に凄い。
派手ではないのに、妙に魅惑的な…それはまるでこの喫茶店のようで、この捉え所のねえ変拍子の曲のようで。
「……どうした、煌」
櫂は僅かに目を細めて。
「お前、本当に17才かよ」
「今更なんだよ。同じ高校通っているだろうが」
少しばかり不満そうに口を尖らせた。
今となったら、桐夏へ通っていたのも夢のような気がしていて。
「がはははは!!! そうか、お前さん…17才だもんな。思春期真っ盛りだもんな」
この毛むくじゃらクマこそ、一番の年を食っているはずなのに…毛が多すぎて、喫茶店には違和感だ。
「なあ、ワンコ。この店…科学の実験してんのか!!?」
やはり大人(アダルト)の空気から弾かれている小猿は、ソファーから身を乗り出しカウンターの一方向を指差した。
「お~。なんだありゃ」
多分…俺も小猿と同類なんだろう。
派手な色からして、此の場にそぐわねえ。
櫂が笑って言った。
「サイフォンだ」
珈琲が入っているのは判ったけれど、液体が下から上に行くってどういう原理よ?
「加熱によって生じる気圧の差で移動している」
さらりと櫂は言うけれど、やっぱり俺は、重力に逆らって移動するのは納得いかねえ。
どう見ても魔法の道具だ。
そんな道具で作った珈琲を、注文してねえのにマスターが運んできた。
無口で無表情のマスターは、静かに櫂とクマの前に珈琲が入ったカップを置く。