シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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「俺は…覚悟を"死"では表わさない。

死は…あまりにも"無"だったから」



俺の返答に…場がざわめいた。


「臆病者…」

「覚悟を示セレずシテよク大層ナ口をキク」

「守らレテ生きル者が死を語ルナ」

「死ガ何たるカヲしラズしテ判っタ口をきクナ」

「無なド何をほザクつモリだ」


戸惑いと怒りと嘲りと…様々な感情が混在したざわめき。

その反応は、俺に対する親父の反応にも似て、何だかおかしくなってしまった。


「ならば逆に問う。お前達は"死"が如何なるものか知っているのか?」


俺は声を上げる。


「その上で、俺の"死"で今までの確執をなかったことに出来るのか?」


途端揺らぐのは…憎悪。


「我らヲそンナニ死なせタイのか」

「我ラヲ愚陋すル為に死を持チ出すナ」



「死を軽んじているのは、お前達だろう」


俺は周囲を見渡した。


口を開かぬ夢路。

びくびくと震えるだけの孫娘。


そしてその他多くの…黒装束。


「死を経験した者は、生きる為に二度目の"死"を持ち出さない。死は無しか生み出さないことを知っているから。

死すれば全てが解決出来るワケじゃないと悟るから」


ざわざわと声が聞こえる。


「死が尊いなどは幻想だ。死はただ消えるだけ。消え去るものに己の尊い生を託すな」


「何モ知らヌ若造が!!!」

「ほザクな!!!」


「お前ら少しは櫂の…」


俺は煌を制する。


「俺の覚悟を証明するものは、今の俺にはない。

だから、お前達の心に…俺は訴え続けるしかないんだ。

頼む。耳ではなく…心で聞いてくれ。

心で俺を見てくれ、信じてくれ」




ざざっと動く気配がした。

地面に放られる偃月刀。


「俺からも頼む。櫂を…信じてくれ」


隣で…煌が頭を下げたんだ。

武器を捨てて。


「……煌、お前…!!!」


「裏世界でやらなきゃなんねえことがあるのは判ってる。けど…それと同じくらい、俺はお前が大事だ。俺はお前と共に在る。幾ら言われても、例え縁を切られたとしても。俺はお前を置いてはいかねえよ。

お前が信用されるまで此処に居続けるというのなら、俺は…横で頭を下げ続ける。お前が体を犠牲にすると言うのなら、お前の代わりに俺が受ける。

それくらいの覚悟で俺は此処に来たんだよ」


慈愛深い…褐色の瞳。

その中には、緋狭さんや芹霞と同じ光が宿っていて。

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