シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



その横では、小さいレイが前に大量の胡桃を並べて座り込んで、土下座の形を作っていた。


「僕の…ぐすっ…僕の胡桃あげるから…櫂のこと好きになってよ。ぐすっ…僕の従弟は嘘をつく奴じゃないんだ。信じてくれよ…櫂を。ねえ…大事な胡桃あげるから。全部あげるから…」


レイ…。


「我は…翠殿の式神。故に櫂殿の為に頭は下げぬ。しかし…我は、櫂殿の為に頭を下げる翠殿に召喚されたことを、誇りに思う」


護法童子…。



「皆の者。この者達は…先程とは違い、"降伏"の姿勢を取ってまで、妾達に信じよと言う。さあ…どうする?」



夢路の声が高らかに響く。


「私は…信じていいと思うよ」


それは、睦月という名の孫娘。


「久涅と同じ顔してるんだし」


俺は目を細めた。

久涅が…この世界で信用されているのか?


ざわめく。

黒装束達がざわめく。


それは変化。

憎悪だけではない感情が芽生えている。


それは睦月の"久涅"という単語も影響あるのかもしれないが、俺は…煌や翠、レイ、護法童子のおかげだと信じたい。

俺は仲間に恵まれた。


例え親父に殺されかけても――

仲間と出会えたのは、紫堂櫂として生まれたからだ。


「お前らニ…我らの受けタ辛サノ何が判るノダ」


それでも、俺の言葉に信憑性がないという黒装束が居る。


「お前ニ死の何ガ判るのダ。死と縁遠い処でヌクヌクと生きテイたクセに」

「我ラノ隣にハ常に死がアッタ。その恐怖ガオ前に判ルカ」

「死は我ラノ尊厳ノ象徴。そレヲ覚悟と思エヌ輩に用はナイわ」


振り出しに戻ってしまう。

相容れないという固定観念は根強く、新たな道を切り開けない。


どうすればいい?

皆を土下座までさせてる俺は、何が出来る?


そんな時、黙したままの夢路がレイの前に立ち、レイが泣きながら差し出した胡桃を…突如俺に投げたんだ。


それは俺の頭の上に向けられ、俺は反射的に胡桃を高い位置で掴む。


何だ?


しかし――

それが場の空気を変えた。


ざわざわと…ざわめく声は、明らかに"驚嘆"で。

そこから拡がるのは烈しい動揺。


訳が判らない俺は煌達と顔を見合わすばかりで。


胡桃を受けたのが、そんなに珍しいことだったのか?


否――


「その手の痣…!!!!」


睦月が指をさしたのは、胡桃を掴んだ俺の手。


その手の甲には、血色の薔薇の痣がある。

久遠に踏まれた後についた、赤い薔薇の痣が。



「お前…死んでいたのかい!!!?」




え?




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