シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「頼んではいないが…」


戸惑い半分、警戒半分に櫂がやんわりと拒めば、


「無事の帰還を願う…祈願のようなものです。

これは…"あちら"に行かれる覚悟をされた方々への、私からのサービスです」


にこりとも笑わねえ厳めしい顔。

良いとも返事してねえのに、勝手に置いて行くマスター。


「あのさ悪いんだけれど」


俺は珈琲なんて飲めねえんだ。

どうもあの苦味が不得手なんだ。


しかし俺の前に置かれたのは――


「存じております。オレンジ味の珈琲風の飲み物です」


カップの端にはオレンジ。

そして…にこにこ笑うイヌのマキアート。


マスター…描いたのか?

想像以上に…可愛いワンコだ。

チワワだけど。


「うわ~ワンコの絵、いいなあ!!!」


……何て嫌味なマスターだと思ったけど、このワンコが可愛いから赦してやるか。


けどマスター。


"珈琲風"…って何だ?

しかも…オレンジ好きとか何処で漏れた、俺の個人情報。


玲か!!?

玲が氷皇の請求書に対応出来るぐらいの大金を稼いでいたのは、俺の情報売っていたせいもあるのか!!?



「あ、俺も珈琲は…」


小猿の前に置かれたカップ。


そこから漂うのは――


「存じ上げております」


ココアの匂い。

そして、猿の絵のマキアート。


………。


なんだこの…見てると微笑んでしまう、可愛い絵は。

これもあのマスター作か?


人は見かけによらねえ芸を持っているもんだ。


「何で猿の絵!!? まあ可愛いから…いいとしても」


反発心も可愛さに和んだらしい。

小猿も意外に可愛いもの好きだ。


「何で俺がココア好きなの知ってるんだ!!? 俺の個人情報、どっから漏れているんだよ!!! は!!!? 紫堂玲か!!?」


………。

何で行き着く結論は、いつも小猿と同じなんだろう?


だけど小猿の情報も金になるのか。

成人するまでに俺、玲くらいの金貯める為には…。


金になりそうな情報をぼんやりと考えていたら、もうマスターは去り、櫂もクマも珈琲に口をつけていた。

いけねえ、護衛が先に味見しないでどうするよ!!?


慌てて俺も、一口飲んでみる。

………。
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