シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ニャン、ニャンッッ!!」
クオンが頭を左右に振った後縮こまる様子をみせて、顎で奥を促すから、あたしはクオンを抱っこしたまま、その方向…車の端っこに走って身体を丸める。
ぎりぎりの高さと距離で、両側から飛んでくる銃弾をかわせたよう。
これもまた成功!!!
「ふぉぉぉぉぉ…」
思わず自画自賛だ。
多少…ネコに調教されている気がしないでもないけれど。
素人女としては、中々…じゃないか?
伊達にゲーセンで人気の逃亡系体感ゲームで、本能で動くリアルワンコと競って勝利してないね。
結果的には30戦1勝という散々なものだけれど、あの煌相手ではその1勝の重みはかなり大きい。
勝利自慢を緋狭姉にした処、その日から煌は過酷なまでの条件反射鍛錬を強いられたらしく、
――お前勝ったのはゲームなのに、何で俺…リアルでゲームと同じ事させられるんだよ。死ぬかと思ったぞ!!?
ゲームとはいえ、あの非常識な"危機"を、現実に体感させられていたらしい。
あれが現実にあったら、普通に死ぬから。
そう思ったけれど、オレンジワンコは今日までしぶとく生き抜いている。
全く、常識が通用しない不思議なワンコだ。
あたしの近くに居るワンコも特殊なれば、ニャンコもそうだ。
つくづくあたしは、不思議な動物に囲まれている。
「よし、クオン。あたし達ナイスコンビだね!!!」
「ニャアアン」
頭を撫でると、クオンは嬉しそうに鳴いた。
あたしはクオンを傍に置いて天板の縁に両手をかけると、窓から顔を飛び出したままの玲くんの顔を、上から覗き込んで、笑顔を見せた。
「クオンがいるから大丈夫。あたしを信じて」
「芹霞…僕は!!」
「あたしは死ぬ気がないから殺さないでよ。玲くんも、頑張って!!!」
端麗な顔が苦しそうに歪められ、そして手が伸びてきたと思ったら、あたしの後頭部をぐっと引き寄せて、
「……!!?」
触れるだけの、一瞬のキス。
そして唇を離した玲くんは、名残惜しそうに…そしてまた、焦げてしまいそうな程の一直線の鳶色の瞳を向けたまま、口元はいつものような優しげな笑みを作って、口早に言った。
「終わったら…沢山するよ? もっと深いのをね」
………。
な、何でしょう…その宣言。
「それが嫌だというのなら、このまま中に引き入れる。受け入れるのなら…今は君に従う」
えげつないなあ、玲くんは。
そしたらあたしはこう言うしかないじゃないか。
「お手柔らかに」
って。