シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

逆に体内を巡る気が乱れれば、その不調は身体で敏感に感じられる。

それは僕に限らず、櫂も煌も桜もそうだろう。

僕達は臍(へそ)の下にある丹田という処を意識した呼吸法により、無意識に気が体内を循環出来るよう、幼少の頃から鍛えられているんだ。

そうした気の統制を体内だけではなく、外にも施したものが結界だ。

つまり僕らにとって気という微弱電流は、普通人より…より身近なもので常に統制されるべきものであり、体調如何により一時的に気が弱まることがあるにしても、気が消失して回復しないという事はありえないんだ。

生きている限り、人体は気を…微弱電流を発し続けるから。


僕達は、その生態原理にただ則っているだけのこと。

だから僕らが使う"気"とか"結界"とかは、特別なものではないのだけれど、由香ちゃんや芹霞から見れば"アニオタ"&"厨二"らしい。


そんな…常駐する僕の中の微弱電流が根こそぎ奪われ、代わって虚数が埋め込まれるあの具合を、何と表現したら言いのだろう。

恐怖であり苦痛であり…。

僕が僕でなくなってしまうような…。


自分自身を制御できない感覚は、無秩序の混沌に放り込まれた感覚に近いのかもしれない。


秩序の世界で生存する為には、「0」と「1」の存在が不可欠要素だと思い知らされたんだ。


あの時僕は、虚数の存在に喘ぐ「0」と「1」の心が判った気がした。


芹霞から送られた、文字化けした大量メール。

助けを求めているメールは、「0」と「1」の感情ではなかったのかと…そう思えるほどに。


正直、運転席に居た時――

僕は困り果てていたんだ。


それ以外にも、同時に降りかかった問題が多すぎた。


力がどうの、強さがどうの、そんなことを言っている余裕が掻き消えるほど、初めて感じる"虚数"の恐れに、僕は対処方法を考えるのに必死で。

そして考えている間にも僕の変調は顕著のものとなり、焦って心乱れる悪循環。


芹霞が時間を作ってくれなかったら、どうなっていただろう。


そして、


――あはははは~。


由香ちゃんが、あの男のメッセージを見つけてくれなかったら。必死に必死に解いてくれなかったら。
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