シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
何を優先していいのか判らない、むしろ虚数の影響を受けて、混乱気味の意識が更に白くなりかけていた僕の前で、由香ちゃんを足蹴にして芹霞までもが危険地帯に飛び込んでしまった。
僕の取り巻く環境は悪くなるばかり。
車を走らせる為、僕の変調を回復させる為の0と1の増産だけではなく、狙撃を防ぐ為の敵の走査でも四苦八苦していたのに、芹霞の動向まで気で追わねばならなくて。
僕が分裂すると思った。
それだけじゃない。
芹霞が危険な目にあっていると思えば、胸が引き裂かれそうな程に苦しくて。
耐えられないと窓から顔を出して、連れ戻そうとしたのだけれど、反対に僕が諌められて。
唇に残る芹霞の温もりを感じながら、僕は芹霞が必死に作ってくれた時間を有効に使う為に、力の配分を調節し心を落ち着かせた。
乱れすぎている気の流れを、整えていく。
芹霞が気にならないといえば嘘になる。
だけど共に闘ってくれる愛しい人に、僕は応えたい。
失望させたくない。
共に…在る為に。
巡れ巡れ、僕の気よ。
僕の力で、どうか僕の大切な人達を守らせてくれ。
僕の中に少しでも0と1があるのなら、守る力になってくれ。
素早く全身を巡る気は循環を強め、より強くより重厚に練られていく。
虚数の入り込む隙間がない程に。
消して溜まるか。
僕の中に生まれた0と1を。
電脳世界に生まれるはずの命を、この世界に召還した僕の矜持に賭けて、虚数に消される為に生かせない。
ざわざわと…耳鳴りのような音が聞こえてくる。
そしてそれは、笑い声に変わっていったんだ。
まるで小さな子供のような無邪気な笑い声に、僕は不思議な懐かしさすら感じて。
僕ははっきりと聞いた。
『信じているからね』
そして、理屈じゃなく…判ったんだ。
この声は多分――
僕が生み出した「0」と「1」。
こんな最中に、生み出してしまってごめん。
だけどどうか僕に力を貸してほしい。
君達の…祝福が欲しいんだ。
『頑張って』
そして僕の体は、限界近くまで放出していた力を更に包み込むような形で、鮮やかで純粋な青色に包まれた。
「ありがとう…」
時間は限定されている。
恩恵に与(あずか)れるのは、永遠ではない。
0と1が僕の体を支えてくれている間に、僕はなんとかしないといけない。
「計算できたッッ!!!」
そんな時、由香ちゃんが声を上げたんだ。