シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「師匠、窓から捨てるな!!! 気持ちは判るけど…!!!」
何が既成事実だよ!!
何がにやにやだよ!!!
そんなトコまで行き着かなくて悪かったな!!!
――あはははは~。
僕は…寝転んで笑いながら書いてるような、氷皇の揶揄に構っている余裕はないんだよ!!!
由香ちゃんに宥(なだ)められ、2枚目にも一応目を通す。
2枚目は1行しかない。
『11行×11列の虚数の魔方陣を作成し、全てを掛けてみてね☆』
あれはフェイント、こちらが本題か?
単純にそう考えていいものだろうか。
「師匠、魔方陣ってあれだよね、縦横斜めどれも足したら同じ数になるっていう…」
「そうだろうね。で、虚数の魔方陣、か。足し算ではなく、全ての掛け算を要求されているけれど」
「そう、だからボク…計算したんだよ!!! まず11×11は…」
「121?」
「……うっ、即答かい。そう、だから-1を121回…」
「え、まさか…」
「そうさ!!! パソコンや携帯やiPhoneの電力は師匠に捧げようと思ったから、計算嫌いのボクがこの紙の裏に…」
11×11の計算式の下に、びっしりと書かれている…
-1×-1×-1×…。
多分、121回分。
まさか、これ全部計算したのか?
え?
計算しちゃったの?
僕が車上の芹霞と話していたあの時間、僕に背を向けて身体を丸めて、この計算をただひたすらしていたの?
………。
していたんだろう、特急速度で。
由香ちゃんの顔は得意げだ。
ああ、由香ちゃんお疲れ様。
「ふふん。答えはね、「-1だよね?」
一瞬の沈黙の後、由香ちゃんの眉が段々と八の字になって、目がじわりと潤んできた。
「ボク…必死に計算したのに、有名な計算なのか、これ!!」
「有名というより…1は幾ら掛けても1だし、マイナス数字の計算は、掛ける回数が奇数なら、強制的にマイナスになるだろうから…あ、いや。うん、由香ちゃんよく頑張った。ご苦労様でした」
「ううっ……」
「じゃあそれを入力してみようね」
「ううっ…」
由香ちゃんは目を擦って、仰向けになりながら、折り畳まれた後部座席のシートの間に斜めに潜り込んだ。
凄いや、あんな場所にあるの…よく見つけれたものだ。
「駄目だ!!! ERRORって出る!!」
計算結果の-1が違うというのなら、正解を導き出す方法が違うと言うことだ。
「となれば…」
怪しいのは、忌まわしき1枚目。
必然の氷皇が、わざわざ同封した紙の内容。