シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「「………」」
やがて由香ちゃんの声が、奇妙な静寂を破った。
「なんだよこの…無駄にイイ話!!! なんだのこの謎の感動!! ボク、りすさんを応援したくなってきちゃったじゃないか!!」
そして涙を拭いながら、
「ねえ、りすさん。何で後半、大人会話になったり、闇属性だのプラスだの…厨二っぽくなってきたんだろう。別にそこ入れなくてもいいのにさ」
不思議そうに首を傾げた。
僕…りすさんじゃないけど…。
いい間違いに、由香ちゃんは気づいてもいないらしい。
そこまで違和感ないんだろうか、僕とりすさん。
「まあいいや。由香ちゃん、厨二要素を入れたということは、それが必要だったからだ。ここにも-1や0や1が出てくる。闇のクオンが-1だとしたら、光の僕は1……?」
"0に戻せ"
"カガミのクオン"
………。
"鏡のクオン"
こちら側とあちら側が同じ…。
まさか!!!
「どうした、師匠!!!」
「相殺だ!!! 虚数の力の大きさに、僕の力を等しく合わせろって言ってる。そして…それはきっと、同じ属性だからクオンが感じている虚数の超音波から、クオンを守ることにもなる。そうか、そしてクオンの結界を利用しろと…」
「は!!?」
「由香ちゃん、ボタンがある部分、ちょっといろいろ触ってみて。多分、別の仕掛けがあるはずだから」
「へ!!!?」
そして由香ちゃんはごそごそと、不安定な姿勢で探索を始め、
「師匠、光る青いボタンがあった!!!!!」
僕が把握しない電力が動くものを発見した。
「それを押すんだ、由香ちゃん。多分それで…この車は、予備電力で走る」
「予備電力!!!?」
「もしくは、内蔵されていたもう1つのバッテリー。多分この車は元々がガソリンではなく電力で動くものを改造していたんだ。だから独立した電気系統が隠されているんだ」
それを使えれば!!
「師匠、押したら…レバーが出てきた!!!」
「だったら、そのレバーを倒して!!! 動力が切り替わるはずだから!!」
「ぬおおおおお。固い、重い。でも頑張る~!!!」
流れ込んでくる0と1。
僕の負担はぐっと楽になった。
「よし、予想通りだ。この速度ならそれ程はもたないけれど、これで僕の力はクオンに向けられている虚数を抑えるための電気制御にまわせる!!!」
それは結果、芹霞を守る力となる。
技術を求められているんだ。
ただ闇雲に放出するのではなく、虚数を感じて、その大きさに僕の力を合わせよといわれている。
やってやろうじゃないか。
「由香ちゃん、トラックを奪ってくるから、そのレバーを頼む。そして移れる準備をしてて。合図するから」
「判った!!!!!」
そして僕は車の上に出た。
トラックの上に浮いた銃が見えた。
それが皆…芹霞に向き始める。
クオン。頼むクオン。
僕は必死に、場の虚数に僕の力を送り込み、虚数の力を0とする為に集中したんだ。
そして――
相殺の力は、僕に新たな力の可能性を見せてくれた。
プラスマイナス0の力となった時、物体の動きは静止する。
それは…防御壁(シールド)。
僕の力は、まだ限界じゃない!!!
「師匠、オーバーヒート…してる!!!」
由香ちゃんの慌てた声に急かされる様にして、僕はトラックに乗り込んだんだ。