シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
僕は、虚数の猛威を止めるということよりも、僕の力により虚数を凌駕して虚数を僕の支配下におくことばかりを考えすぎて、必要以上に…過剰な0と1を虚数に注ぎ続けていたのだと思う。
あちこちに僕の力が必要な状況であるなら、最低限の力で最大限の効果を生み出さねばならないというのに、その技術を極めるよりも力による制圧ばかりを思い、結果…僕は無駄に力を垂れ流していたことになる。
僕は自分で自分の首を絞めていたんだ。
動きを止める方法は、何も力でねじ伏せるだけ方法がないわけではなく、同じ強さの相反する力を加えることによって互いの影響力を失わせる"相殺"も1つの方法だ。
相殺によって得られるものは、"静止"であり…それはどんな力の干渉も受け付けない、時を止める魔法のようなものだった。
虚数の攻撃が止まった時間、クオンの結界力を強めた僕は、まるで鏡の反射のようにクオンから僕への結界が強められたのを知る。
僕と等しい強さの力を感じ取り、僕は気づいた。
クオンの力の根源は、"反射"であるのだと。
言葉を認識するというのもその現れだろう。
言葉という人間特有の心を向ければ、相応のものが返ってくる。
だから妙に人間臭いんだ。
…まあ、ネコの気質も関係はあるのだろうけれど、たかがネコとあしらえば、たかがネコからあしらわれる。
僕が芹霞に愛情を示せば、クオンも同じことをしようとする。
クオンは、こちらの心を反射するんだ。
人間という存在に優位性はない。
動物という存在に劣位性はない。
そこに通じる心がある限り、何処までも等しくあるべき存在なんだ。
だからこそ僕は、クオンを同じ種のものとして、男として芹霞を託した。
クオンは、必ず芹霞を守るだろう。
僕が溶かした孔から降り立った先は、トラックの運転席の真上。
見えぬ運転手がいることはとうに判っている。
僕は孔から下ろした足で、運転席と助手席にいるだろう存在を、連続的に両側の窓に叩き付けるようにして蹴り飛ばした。
窓に烈しくぶつかる衝撃音がする。
それでも割れない窓硝子。
助手席で浮きかけた銃は、すとんと降り立った僕の…掌打が払い、そして素早く開けたドアから…何かが外にドサリと落ちたような感覚がした。
蛇行するトラックを思えば、運転手は意識を失っているのだろうか。
やはり念のために運転席のドアを開けて、座席の空間に肘撃ちして見えぬ敵を外に突き飛ばし、僕は運転席に滑り込んでトラックの運転を始める。