シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
普通免許しか取っていない僕は、大型トラックの運転は初めてだ。
こんな処を警察に見つかったら、間違いなく逮捕されてしまうだろう。
普通ではない状況にいることは、感謝したい心地だ。
運転席には、人為的に施された、色々なスイッチがあった。
力をトラック全体に巡らせ、このトラックに流れる電気系統を大まかに走査すれば、ボタンの1つが荷台の…後背のドアに直結しているのが判る。
まだ荷台に敵が居るのか判らないけれど、念のため振り落とすか。
1つのボタンを押し、荷台の扉を開けると同時に、急ブレーキを踏んで衝撃を荷台に与え、そして蛇行しつつ速度を上げた。
その衝撃が結構なものだったのか、道路に荷台から派手に何かが流れ落ちた気がする。
パックミラー越しに見てみれば、何かの機械と真後ろの…扉だった。
そして同時に、虚数の存在が消えたことを感じ取る。
もしかすると、落ちた機械が関係あるのかもしれない。
後で機械を詳しく調べられなくなったのは残念だけれど、偶然の産物とはいえ…虚数に触れ続けていた身体の強ばりが解消され、無意識に安堵の息をついてた僕。
虚数の手から、逃れられたか。
後は無事に走り抜けるだけだ。
斜め前方にある青いワゴンは、発火し始め減速していた。
いまにも炎上寸前の非常に危険な状態にある。
「こっちの天井に飛び移れるか!!?」
僕は窓から顔を出し、車上に居る芹霞と由香ちゃんに声をかけると、2人はとても微妙な反応を寄越した。
やはり無理か。
素人の女の子に、例え減速しているとはいえ、高速移動中の更に高さのある処に飛び移れということは、あまりに無茶すぎる要求をしているのは自覚している。
やはりここは僕が直接手助けしようと、力による車の運転に切り換え、荷台の上に上がろうとした僕は……、サイドミラー越し、また後ろから、虚数を発して走ってくる大型バスの影を見てしまったんだ。
このままではやばい。
振り出しに戻ってしまうじゃないか!!!
とにかくトラックに全員が乗らないと話にならない。
「玲くん、あたしがやる!!! 大丈夫だから!!! 玲くん運転してて」
そんな僕の焦りに呼応するように、覚悟を決めたように芹霞の声が聞こえて、
「うおおおお…とりゃああッッ!!!!」
僕が答えるより早く、ドシンと真上で音がした。