シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
そんな誘導に易々と乗る僕じゃない。
回避しようと隣車線に出ようとした僕だったが、ミラー越し、今度はガソリンを積んだタンクローリーが2台暴走してくるのが見えた。
ありえない風景だ。
車線変更を封じて、あくまで出口に押し出すつもりなのか。
このままなら…僕はその流れに逆らえなくなる。
諦めるな。
諦めるんじゃない!!
反対車線には…車の影はない。
だったら取るべき術は1つ。
「振り落とされないよう気をつけて!!!」
僕は…タンクローリーが追いつく寸前で、アクセルを踏み込んでからハンドルを右に切り、
「「まさかの……」」
そしてトラックの重さで植栽の中央分離帯を薙ぎ越えながら、右回転した車体に、サイドブレーキを引く。
「「デコトラのドリフト!!!? いや180度回転スピンターン!!?」」
タイヤから悲痛な叫びが聞こえたけれど、お構いなしにトラックを反対車線に乗せた時、同様に真似してきたバスやトランクローリーは、
「「さようなら~」」
後続の引っ越しトラックに接触して炎上したり、あるいはガードレールから転落したりして、視界から消え去った。
そしてトラックは、悠々と…東京に向けて走行したんだ。
孔を通して、車の上に居る芹霞達の会話が聞こえてくる。
「何で師匠…ドリフトやスピンターンなんて出来るんだろう…」
「ゲーセンで鍛えてるんじゃない…?」
芹霞……。
トラックでドリフト練習できるゲームなんてないから…。
「このデコトラ、運転しているのが…ミス桜華なんてありえないよな」
「そうだね。玲くんに、鉢巻き頭に巻いたトラック野郎は似合わないしね」
「神崎、君のイメージは古いんだよ。ああきっと、ドリフト最中でも、師匠は涼しい顔してたんだぞ? ボク達は死ぬかと思ったのに。このニャンコなんて、ドリフト時には毛が逆立って『フンギャー』だったんだぞ? 化け猫もビックリ」
「よしよし、怖かったね」
「ニャア……」
………。
驚かせてごめんね?
「なあ神崎、このトラックの側面の看板見てた?」
「いやよく見てない」
「……。Zodiacの新曲の宣伝カーだったぞ」
「え…あたし達宣伝しながら東京戻るの?」
………。
Zodiacと関係あるから、虚数が発動されたんだろうか。
それはよく判らないけれど。
僕達は桜の待つ池袋へと、着実に向かって行ったんだ。
桜…待ってろよ。